「おい、イシェ、準備いいか？」ラーンの豪快な声はビレーの朝霧を切り裂いた。イシェは小さくため息をつきながら、道具を整理した。いつも通り、ラーンは計画もなく、ただ遺跡に飛び込もうとしている。「あの遺跡は危険だって言っただろう。罠が仕掛けられている可能性もある」イシェの忠告も、ラーンの耳には届かないようだ。「大丈夫だ、大丈夫！俺にはイシェがいるじゃないか！」ラーンは自信満々に笑った。
テルヘルは、二人が準備を終えるのをじっと見ていた。彼女の鋭い視線は、まるで彼らを透かそうとしているようだった。「今回は特に慎重に。あの遺跡には、ヴォルダンが欲しがるものがあるらしい」テルヘルの声は冷酷で、どこか不気味な響きがあった。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。ヴォルダン…。その名前は彼らの生活を影で支配する存在だった。
遺跡の入り口は、暗くて湿った洞窟だった。石畳が崩れ落ち、苔むした壁には奇妙な模様が刻まれている。ラーンは先陣を切って洞窟に踏み入れた。イシェは彼の後ろを少し遅れて進み、テルヘルは後方を固めた。
彼らは深い闇の中を進んでいくにつれ、空気が重くなっていった。不気味な静寂に包まれ、わずかな音さえも巨大な影のように感じられた。突然、ラーンが足を止め、「何かいるぞ！」と叫んだ。目の前に広がる空間は、石柱で支えられた巨大な部屋だった。中央には、光る結晶が設置されている祭壇があり、その周りを奇妙な生き物がうごめいているように見えた。
「これは…！」イシェは言葉を失った。彼女の目は恐怖と好奇心で輝いていた。ラーンは剣を抜き、生き物に襲いかかった。「食らえ！」彼の叫びが、洞窟にこだました。生き物は鋭い牙を剥き出し、ラーンに襲いかかってくる。激しい戦いが始まった。
イシェは冷静に状況を分析し、テルヘルと協力して生き物を追い詰めていった。テルヘルは魔法の力を使って生き物を拘束し、イシェは素早い動きで攻撃を加えた。しかし、生き物たちは数が多く、強力な力で反撃してきた。
ラーンは疲労困憊の中、最後の力を振り絞って生き物の首を斬り落とした。「よし！」彼は息を切らしながら言った。「これで終わりだ！」しかし、彼の言葉が途絶える前に、祭壇の結晶が激しく輝き始めた。部屋全体が不気味な光に包まれ、生き物たちは狂ったように暴れ始めた。
イシェは恐怖で体が震えた。この遺跡には、何か恐ろしいものが眠っているのかもしれない。ラーンの無謀な行動が、彼らを破滅へと導くのではないか…そんな不安が彼女の心を支配した。
その時、テルヘルが叫んだ。「あの結晶を破壊する必要がある！」彼女は剣を祭壇に向け、力強く振り下ろした。しかし、結晶は頑丈で、剣が跳ね返された。「無理だ…」イシェは絶望的な気持ちに襲われた。
ラーンは立ち上がり、テルヘルに駆け寄った。「俺が行く！お前は逃げろ！」彼は叫びながら、結晶に向かって突進した。イシェは彼の後ろ姿を見て、言葉を失った。なぜ、ラーンはいつもこうも無謀なのか…。
ラーンの剣は結晶に突き刺さり、激しい光を放ち始めた。そして、突然の爆発が起こった。洞窟は崩れ落ち、全てが闇に包まれた。