ビレーの酒場「荒くれ者の陽炎」はいつもより賑やかだった。ラーンの豪快な笑い声が、イシェの低いため息とテルヘルの冷めた視線に交じり合い、独特の音色を奏でている。
「あの遺跡には本当に財宝があるって聞いたぞ！今度こそ大穴だ！」
ラーンは、テーブルに置かれた空になった酒樽を叩きながら目を輝かせた。イシェは眉間にしわを寄せ、テルヘルは静かにワイングラスを傾けていた。
「また噂話か？」
「今回は違うんだ。あの老人が言ってた！昔、この地を治めていた王が、そこに秘宝を隠したって！」
ラーンの熱のこもった話しに、イシェはため息をついた。彼女は何度もラーンと一緒に遺跡を探検してきたが、未だに大成功には至っていない。
「王の墓だなんて、そんな場所には危険がいっぱいだろう」
イシェの言葉に、ラーンの興奮は少し冷めた。しかし、すぐに彼の目は再び輝きを取り戻した。
「だからお前たちが必要なんだよ！俺が戦って危険をかわし、お前たちが遺物を集めるんだ！」
イシェは諦めの表情を見せた。テルヘルはラーンの言葉に深く考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「王の墓なら、ヴォルダンにも情報があるはずだ。もし本当に財宝があるなら、彼らが先に手を出す可能性もある」
ラーンの顔色が変わった。ヴォルダンとは、彼の故郷を焼き尽くした大国だった。
「俺たちの力を試すチャンスだ！ヴォルダンに先を越される前に、俺たちがその財宝を手に入れるんだ！」
ラーンの言葉に、イシェは少しだけ心を動かされた。テルヘルもまた、ヴォルダンへの復讐心から、この冒険を受け入れることにした。
「よし、準備を始めよう」
三人は酒場を出て、夕暮れの街へと歩いていった。彼らの背中には、希望と不安が入り混じった影が伸びていた。
しかし、この冒険は、彼らが予想していたよりもはるかに残酷な結末を迎えることになるだろう。