ラーンが石の塊を力ずくで持ち上げようとしていた。イシェは眉間にしわを寄せながら「そんな原始的な方法じゃ無理だ。あの隙間から滑り込ませるべきじゃないか」と冷静に指摘した。だがラーンの耳には入っていない。彼は赤い顔をして、まるで巨大な岩塊と対峙しているかのような険しい表情で、再び力を込めた。
その時、テルヘルが鋭い声で言った。「無駄だ。あの石は呪われている」
ラーンの動きが止まった。イシェも背筋を寒くするような予感がした。テルヘルはゆっくりと石に近づき、指先でその表面を撫でた。「この遺跡の至るところに刻まれた紋様をよく見てみろ。これは単なる装飾ではない。古代の呪文の一部なのだ」
ラーンの顔色が変わった。彼は自分の無謀さを痛感した。イシェはテルヘルの言葉を真剣に受け止めながら、石の表面にある複雑な模様をじっと見つめた。その紋様はまるで蛇が絡み合っているように見える。イシェはどこかで見たことがあるような気がした。
「この紋様は…」テルヘルが言葉を続けた。「私の故郷にあった王家のシンボルとそっくりだ。あの王家はヴォルダンに滅ぼされ、彼らの遺産は全て奪われた。この遺跡もまた、その一つなのかもしれない」
ラーンは沈黙した。イシェはテルヘルの顔色を伺いながら、彼女の瞳の中に燃える復讐の炎を感じた。それは単なる遺跡探索以上の何かを秘めていた。そして、彼らはその渦中に巻き込まれていくことを覚悟せざるを得なかった。