「よし、今日はあの崩れかけた塔だな」
ラーンが、イシェの眉間にしわを寄せる様子を気に留めずに、地図を広げた。ビレーの外れにある遺跡探検は、彼にとって日課のようなものだった。
「またあの塔か？ ラーン、あそこは危険だって何度も言っただろう」
イシェの言葉にラーンは、いつものように笑ってかわした。
「大丈夫だ、イシェ。俺が行くんだろ？」
彼は剣を手に取り、自信満々にそう言った。イシェはため息をつきながら、背後から続くテルヘルの冷たい視線を感じた。
「今回は慎重にやれ。遺跡調査の許可証も手に入れたばかりだ」
テルヘルは冷たく言い放った。彼女の目的は、単なる遺跡探索ではなかった。ヴォルダンとの戦いに必要な情報、そして復讐のための武器を探していたのだ。そのためには、ラーンとイシェの力を必要とした。
「わかったよ、テルヘル。大穴に辿り着くまでは、何もかも慎重にやるよ」
ラーンの言葉は、いつも通り軽いものだった。しかし、イシェは彼の瞳に、どこか影を感じた。最近、議会での議論が激化し、ビレーの街全体が不安な空気に包まれていることを彼は肌で感じていたのだろう。
崩れかけた塔への道は険しかった。足元の岩が崩れ落ち、危険な罠が仕掛けられていた。イシェは慎重に道を進み、ラーンの後ろをついていった。テルヘルは先頭を歩き、鋭い目で周囲を見渡していた。
塔内部は暗く湿っていた。壁には謎の文字が刻まれており、床には朽ち果てた家具が散らばっていた。ラーンは興奮した様子で、壁に描かれた文字を指さし始めた。
「見てイシェ！ これって古代語じゃないか？もしかしたら、大穴への手がかりかも！」
イシェは彼を制止しようとしながらも、同時に好奇心を抑えきれなかった。この遺跡には何かが隠されていると感じていたのだ。
しかし、その時、塔の奥から不気味な音が響き渡った。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。
「これは…何かいるぞ！」