ラーンの大斧が石壁を叩き砕いた。埃が立ち込め、彼の顔は汗と土まみれだった。
「ここだ！何かあるぞ！」
イシェは懐中電灯の光を振り回し、崩れた壁の奥を照らした。「確かに何か…あるみたいだけど…」
彼女の眉間に皺が寄った。それは巨大な石棺だった。装飾が施された表面には、不気味なシンボルが刻まれていた。
「おい、これって…？」
ラーンは棺に手を伸ばそうとしたが、イシェが彼の腕を掴んだ。
「待て！触るな！」
彼女は緊張した声で言った。「このシンボル…見たことがあるような…」
その時、背後から声が響いた。「あのシンボルはヴォルダンの紋章だ。」
テルヘルが鋭い視線で棺を見つめていた。彼女の表情は硬く、何かを思い出すように苦しそうだった。
「ヴォルダン？」ラーンが聞き返した。「何の話だ？」
イシェも首を傾げた。テルヘルは深呼吸し、ゆっくりと口を開いた。
「この遺跡…かつてヴォルダンの軍勢が占領していた場所だ。そして、このシンボル…」
彼女は棺の紋章を指さした。「これは、犠牲者を捧げるための魔術陣だった。」
ラーンの顔色が変わった。「犠牲者？どういうことだ？」
テルヘルは目を伏せた。「このシンボルを見た時、私は…思い出してしまった。ヴォルダンが奪ったもの…」
彼女は言葉を濁し、何かを隠しているようだった。ラーンとイシェは互いに視線を交わした。
「あの時、お前は何を…？」イシェが尋ねた。
テルヘルは顔を上げ、彼らに謝罪するような眼差しを送った。「私は…あなたたちに謝るべきだ。この遺跡に来る前に、もっと詳しく話すべきだった…」
彼女の言葉は途切れた。ラーンの心には不吉な予感が広がっていくのを感じた。この遺跡、そしてテルヘルが抱える秘密。全てが、彼らを巻き込んだ危険な罠へと繋がっているように思えた。