ビレーの朝露が乾き始める頃、ラーンはいつものようにイシェを引っ張り出した。今日も遺跡だ。目指すのは町から少し離れた、かつて「風の神殿」と呼ばれた場所だ。
「またあの古い話か? そんな大層な名前の遺跡なんて、ただの石ころの山だろうよ。」イシェはいつも通り渋い顔をしていたが、ラーンの熱意に押されるように歩き出す。
「違うって! この遺跡には、風の神が眠るという伝説があるんだぞ! きっと何かすごい遺物が見つかるはずだ!」ラーンの目は輝いていた。イシェは微笑む。ラーンの楽観的な性格は、彼女をいつも安心させてくれる。
テルヘルは二人が遺跡に入る前に立ち止まった。「今日は慎重に。この遺跡には、ヴォルダンが興味を持っているという噂がある。」彼女の言葉は冷酷で、まるで氷の刃のようだった。
遺跡の中は薄暗く、埃が舞っていた。ラーンの剣が、わずかな光を反射させる。イシェは慎重に足取りを進める。彼女はいつも以上に緊張している。テルヘルの警告と、ヴォルダンの影が彼女の心を重くしていたからだ。
彼らは奥深くまで進むにつれて、遺跡の壁に描かれた謎めいたシンボルを見つけた。それは複雑な幾何学模様で、古代の文字が組み合わさっていた。イシェは興味津々で近づき、指でそっとなぞった。「これって... 何か意味があるのだろうか?」
その時、壁の一部が突然光り始めた。同時に、遺跡の奥底から不気味な音が響き渡った。ラーンは剣を構え、イシェは後ろに下がった。テルヘルは冷静さを失わず、周囲を見回した。
「何だ... これ?」ラーンの声が震えていた。壁からは青い光が噴出し、空中に奇妙な模様を描き出した。その模様は、まるで生きているかのように変化し続け、やがて一つの巨大なシンボルへと融合していった。
イシェは息をのんだ。それは... 風のシンボルだった。伝説の風の神殿の名前にふさわしい、圧倒的な力と神秘を感じさせるシンボルだった。
「これは... 何か大きな秘密を秘めている。」テルヘルの声は低く、そして謎めいた表情で言った。「ヴォルダンが欲しがっているもの... それは一体何なのだろう?」
ラーンとイシェは互いの顔を見合わせた。彼らはまだ何も分かっていなかったが、この遺跡が彼らの運命を変えるものだと確信していた。そして、その運命には、謎めく真実と危険が潜んでいることを。