ビレーの酒場が賑わう夜だった。ラーンはイシェから耳打ちされるように「テルヘルが呼び出している」と告げられる。 いつもなら、高額な報酬をちらつかせるテルヘルの依頼には飛びつくラーンだが、今回は様子が違った。「何かあったのか？」とイシェに問いかけられ、ラーンは首を振るだけだった。最近、テルヘルはどこか落ち着きがないように感じていたのだ。
「ヴォルダンへの復讐」を口にするたびに、彼女の目は冷酷な輝きを帯び、言葉の端々に復讐心を秘めた策略が渦巻いていた。ラーンとイシェは、テルヘルの目的を理解することなく、ただ危険な遺跡探検に明け暮れていた。
今回は、ヴォルダンとの国境付近にある未踏の遺跡調査だった。テルヘルは詳細を伏せながらも、「重要な遺物」があると断言し、報酬額も普段より大幅にアップしていた。イシェは不安げに「本当に大丈夫なのか？」とラーンに尋ねたが、ラーンの表情は決意に満ちていた。「俺たちは遺跡を探検する冒険者だ。テルヘルの言うことを聞くのが仕事だろう」
遺跡の入り口には、ヴォルダンの紋章が刻まれた石碑があった。イシェは背筋を寒くした。まるで警告のように、不吉な予感が漂う。ラーンは「大丈夫だ」と強がるように言いながらも、心の中で不安な気持ちを抑えきれなかった。
遺跡内部は複雑な迷路のようになっており、罠が仕掛けられた箇所も多々あった。イシェの冷静な判断とラーンの力強い剣技で、なんとか進んでいた。しかし、彼らは次第にテルヘルの不自然な行動に気付き始める。彼女はいつもより無口で、時折、意味深な言葉を呟くこともあった。
遺跡の奥深くにある大広間には、巨大な石棺が置かれていた。テルヘルは興奮気味に「これが目的の遺物だ」と声を上げ、石棺に手を伸ばす。その時、ラーンは彼女の手を掴み、「待て！」と叫んだ。「何かおかしい。これは罠だ」
その時、石棺の上から砂埃が舞い上がり、隠されていた通路が現れた。テルヘルは驚愕した表情で「こんな場所があったとは…」と呟いた。その瞬間、通路から複数の武装兵士が現れ、ラーンとイシェを包囲した。「ヴォルダン軍だ！」
イシェは「騙された！」と絶叫した。ラーンの目には怒りと裏切りを感じさせる光が宿っていた。テルヘルは冷たい声で言った。「お前たちを利用するだけで十分だった」
実は、テルヘルは遺跡調査を装い、ヴォルダン軍に情報を流していたのだ。大穴ではなく、ヴォルダンへの復讐のために、ラーンとイシェを利用したのだった。そして、この遺跡から持ち出された遺物は、ヴォルダンに献上されるためのものだった。
ラーンは怒りに震えながら剣を抜き、「必ずお前を倒す！」と叫んだ。イシェもまた、裏切られた怒りと悲しみを胸に秘めながら、戦いの準備を整えた。二人は、テルヘルの謀略に巻き込まれ、壮絶な戦いに身を投じることとなる。