ビレーの朝の陽光は、ラーンの寝ぐせの悪さに容赦なく照りつける。イシェが不機嫌な顔で彼を起こすのもいつも通りだ。
「今日はテルヘルさんの依頼で、あの『嘆きの塔』に行くんだろ？ あの塔は噂で呪われているって聞いたことがあるんだけど…」
イシェの言葉にラーンは、いつものように爽やかに笑った。
「呪いなんて気にすんな！ 宝物が見つかるかもしれないんだぞ！」
しかし、イシェの目は曇り、ラーンの背中に影を落とすように、塔の影が伸びていく。
テルヘルはビレーの酒場で彼らに依頼を告げた。「嘆きの塔」にはかつて、ヴォルダン王家の宝物庫があったという伝説がある。だが、その塔は誰も近付かない呪われた場所とされており、何人もの探検隊が謎の死を遂げているという。
テルヘルは、ラーンたちの腕に目をつけ、危険な探索を依頼してきたのだ。報酬は莫大だったが、イシェには不吉な予感が拭えなかった。
塔は、まるで巨大な石の墓のようにそびえ立っていた。入り口は崩れ落ち、苔むした壁からは冷たい風が吹き出す。ラーンが最初に一歩を踏み入れると、背後からイシェが小さく呟いた。
「本当に大丈夫なのかしら…？」
だが、ラーンの耳には届かなかった。彼は、塔の奥深くへと続く暗い階段を軽快に駆け上がっていった。
塔の中は薄暗く、埃っぽい空気で満たされていた。壁には奇妙な模様が刻まれており、不気味な雰囲気を漂わせていた。ラーンは剣を構え、イシェは後ろから警戒しながら進んだ。
すると、突然、床が崩れ、ラーンが深い穴に落下した。イシェは悲鳴を上げて駆け寄るが、穴の淵からはラーンの姿が見えない。
「ラーン！」
イシェの叫びは、塔の奥深くへと響き渡った。しかし、返ってくるのは、冷たい風と、不気味な沈黙だけだった。