「待てラーン!あの石畳、足場が怪しいぞ!」イシェの言葉は風の音に飲み込まれそうになった。ラーンの後ろ姿はすでに崩れたアーチ状の入り口に向かって進んでいた。
「大丈夫だ、イシェ。見てみろ、この壁!古代の技術で出来てるんだぞ。こんなもん、簡単に壊れるわけないだろ?」ラーンは振り返らずに言った。彼の声にはいつもの自信と興奮が満ちていた。だが、イシェは彼の背中に不安を感じた。
「でも…」イシェは言葉を濁した。彼女はラーンの行動にいつもハラハラさせられる。彼の楽観的な性格は時に危険な判断を招く。
その時、ラーンの足元にあった石畳が崩れ始めた。彼はよろめきながらバランスを取ろうとしたが、すでに遅かった。ラーンは深淵へと落ちていった。
「ラーン!」イシェは悲鳴を上げた。彼女は駆け寄ろうとしたが、崩れた石畳の隙間からは彼女が入ることはできなかった。
「 damn it…」イシェは歯を食いしばった。彼女はラーンの無謀さにいつも怒りを感じていたが、彼を失うことなど想像したくもなかった。
その時、背後から声が聞こえた。「大丈夫だ、イシェ。私が助ける」それはテルヘルだった。彼女は冷静にロープを投げ下ろし、ラーンを這い上がらせている。
「ああ、ありがとうテルヘル…」イシェは安堵の息をついた。だが、同時にラーンの無謀さに憤りを感じた。
「お前は本当に運が良いな、ラーン」テルヘルはラーンの顔を見つめながら言った。「でも、いつまでもそうもいかないぞ。自分の命を軽視するなら、いつか本当に終わりだ」
ラーンの表情が曇った。彼はテルヘルの言葉に深く突き刺さるものを感じた。イシェの諫言はいつも通り無視できたが、テルヘルの言葉は彼の心に重くのしかかった。
「わかった…わかったよ。次は気を付ける」ラーンは小さく呟いた。
テルヘルは満足げに頷き、三人で遺跡から立ち去った。しかし、イシェはラーンの表情をじっと見つめていた。彼の言葉の裏には、本当に反省したのか、それともまたすぐに同じ過ちを繰り返すのか、彼女は分からなかった。