「おい、イシェ、今日はどこ行くんだ？」ラーンが、いつも通りの豪快な声で尋ねた。イシェは、彼とは対照的な静かな口調で、「地図によると、北西にある廃墟だ。遺跡の記録には、古い魔法道具に関する記述があるらしい」と答えた。
ラーンの眉が上がった。「魔法道具か… 今回は大穴が見つかるかもな！」彼の目は輝き、イシェはため息をついた。ラーンはいつも、楽観的な予想ばかりしていた。
「でも、あの辺りはヴォルダンとの国境に近いはずだ。注意が必要だぞ」テルヘルが警告した。彼女は鋭い視線をラーンの顔に向け、「特にお前、ラーン。衝動的行動は控えるように」と付け加えた。ラーンの顔色が少し曇ったが、すぐにいつもの笑顔に戻り、「わかってるよ、テルヘル。今回は慎重にやるからな！」と言い放った。
廃墟への道は険しく、荒れ果てた風景が広がっていた。イシェは地図を片手に慎重に道を進み、ラーンは後ろから彼を牽引するようだった。テルヘルは二人よりも少し後方から様子を伺いながら歩いていた。
廃墟に着くと、崩れかけた石造りの建物が姿を現した。かつて栄華を誇った建物だったのだろうが、今は朽ち果て、荒廃の空気に満ちていた。
「ここか…」イシェは呟きながら、建物の内部へと足を踏み入れた。ラーンも後を追い、テルヘルは最後に門をくぐり抜けた。
遺跡内部は薄暗く、埃が舞っていた。壊れた柱や壁から、かつての栄華を偲ばせる装飾が垣間見えた。イシェは慎重に足場を確認しながら、奥へと進んでいった。ラーンは後ろからイシェの後をついていくが、彼の目は、遺跡の中に散らばる宝箱ばかりに注がれていた。
「おい、イシェ！見てみろ、この宝箱！」ラーンが叫んだ。イシェはため息をつきながら、ラーンの横へ移動した。「また宝箱か… あれはただの空っぽの箱だろう」とイシェが言うと、ラーンは顔をしかめた。「いや、今回は違う気がする！絶対何か入ってるはずだ！」
ラーンは意を決したように宝箱を開けようとしたが、その瞬間、床から鋭い光が放たれ、ラーンを直撃した。彼は悲鳴を上げながら後ずさった。イシェとテルヘルは慌ててラーンの元に駆け寄った。
「ラーン！大丈夫か？」イシェが声をかけたが、ラーンは意識を失っていた。床に落ちている宝箱からは、奇妙な紋章が刻まれた石板が出てきた。
「これは…！」テルヘルは石板を手に取り、眉をひそめた。「これはヴォルダン軍が使用する魔法道具だ」彼女は冷ややかな声で言った。「この遺跡にはヴォルダンの罠が仕掛けられていたようだ」
イシェは顔面蒼白になった。ラーンが意識を失った原因がわかったのだ。「あの光… ラーンを襲ったのは何だったのか？」彼は恐怖を感じながら尋ねた。
テルヘルは石板を手に、沈黙のままであった。彼女の目は、何かを深く考えているようだった。そして、彼女はゆっくりと口を開いた。
「この遺跡に眠るものは、ヴォルダンにとって重要な情報なのかもしれない…」
イシェは彼女の言葉の意味を理解しようと試みた。ラーンの無意識の状態、ヴォルダン軍の魔法道具、そしてテルヘルの不穏な表情。彼の頭の中は混乱していた。
「一体、私たちはここで何をすべきなのだろう…」