「よし、行こうか!」
ラーンの元気な声が響き渡り、イシェは溜息をついた。いつものように計画性ゼロのラーンが遺跡への入り口に立っている。
「また、大穴が見つかるって信じてんの?」
イシェの言葉にラーンはニヤリと笑った。
「もちろん!今日は絶対に見つかるぜ!」
イシェは彼の楽観的な態度を理解しようともしなかった。自分たちが遺跡探索に頼る生活を送っているのは、ラーンの大穴への執念が原因だ。
「今日はテルヘルさんがいるから期待できるかもな」
イシェの視線は、少し離れた場所に立っていたテルヘルに向けられた。テルヘルはいつも冷静で、目的を達成するために手段を選ばないタイプだ。彼女はヴォルダンへの復讐のために遺跡を探しているというが、その真意はイシェには最後まで分からなかった。
「よし、準備はいいか?」
テルヘルが声をかけると、ラーンとイシェは頷いた。遺跡の入り口へと足を踏み入れる時、イシェは胸に不安を感じた。今日は何か違う予感がしたのだ。
遺跡内部は暗く湿っていた。足元には石畳が敷かれていたが、何世紀も前のものなのか、崩れかけている箇所もあった。
「ここらへんで大穴が見つかったって話があったな」
ラーンの声が響き渡った。イシェは彼をたどりながら、周囲を注意深く観察した。壁には謎の文字が刻まれており、床には奇妙な模様が描かれていた。
突然、床が崩れ始めた。ラーンが驚いてバランスを失いそうになった時、テルヘルが素早く彼の腕を掴んだ。
「気をつけろ!」
テルヘルは落ち着き払った声で言った。イシェも慌ててラーンの手を掴み、三人でなんとか立ち止まった。崩れた床からは深い闇が広がっていた。
「ここは…罠だったのか…」
イシェが呟くと、テルヘルの表情が険しくなった。
「この遺跡には何か秘密があるようだ」
彼女は剣を抜き、周囲を警戒した。ラーンの大穴への執念は、彼らを危険な場所に連れてくる可能性があった。イシェは不安を感じながら、深く暗い遺跡の奥へと続く階段を見つめた。