ラーンの粗雑な斧の一撃が、埃まみれの石壁を粉砕した。崩れ落ちた石の下から、鈍い光が漏れてきた。イシェは、眉間に皺を寄せながら、慎重に瓦礫を払いのけた。
「またしても小ぶりだな」
イシェの言葉に、ラーンは肩をすくめた。「まあ、せっかくだし、全部持ち帰るぞ」と、彼は陽気に笑った。イシェは小さくため息をつきながら、小さな銀の杯を拾い上げた。杯には、奇妙な模様が刻まれており、イシェの手元に置かれた途端、わずかに温かさに変化した。
「これ、一体何だ？」イシェが呟くと、ラーンは興味津々に杯を覗き込んだ。「珍しい形だな。きっと高値で売れるぞ！」彼の目は、金貨の光を見ているようだった。
その時、背後から冷たい声が響いた。「面白いものを見つけましたか？」
ラーンの背筋に寒気が走った。振り返ると、テルヘルが立っていた。その鋭い眼光は、まるで彼らの魂を穿つように感じた。ラーンは慌てて杯を隠した。「あ、あの、これは…」
「無駄だ」テルヘルは冷たく言った。「私は知っている。この杯の真価は、あなたの想像を超えるものだ」彼女はゆっくりと杯をイシェから取り上げると、その表面を撫でた。
「これは、ヴォルダン王家の秘宝の一つである可能性が高い。伝説によると、この杯には、かつて王が失った力を呼び戻す力があると伝えられている」
ラーンの心臓は激しく鼓動した。ヴォルダンの王家？失われた力？彼はテルヘルの言葉に、何か大きな事件の予感がした。イシェも同様に、硬い表情でテルヘルを見つめていた。
「この杯を手に入れるためには、どんな危険にも立ち向かう必要があるだろう」テルヘルは、静かに言った。「あなたたちは、私に協力するつもりか？」
ラーンの目は迷った。彼は金貨に目がくらむような男ではなかったが、冒険心と好奇心は常に彼を駆り立てていた。イシェもまた、この杯の真実に興味を抱いていた。二人は互いに視線を交わし、やがて決意したように頷き合った。
「わかった」ラーンは言った。「私たちは協力する」