ラーンの豪快な笑い声がビレーの市場にこだました。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の背中に手を当てて引き止めた。「また大穴の話か？そんなもの、本当に見つかるわけないだろう」。ラーンは振り返り、陽気に笑った。「見つかると信じていれば、いつか必ず見つかるんだ！ほら、あの遺跡の奥深くには、きっと宝石が山ほど埋まっているはずだ！」。イシェはため息をつきながら、彼の肩を軽く叩いた。「それより、今日の仕事はどうするんだ？テルヘルから依頼があったはずだろう」。ラーンの笑顔は少し曇り、「ああ、そうだ。今日はあの危険な遺跡に入るんだって。報酬も悪くないらしいし、一度見てみるか」と答えた。
イシェは内心不安を感じていた。テルヘルの依頼はいつも危険なものばかりだったからだ。しかし、ラーンの熱意と、自分自身の好奇心にも負けず、二人はテルヘルのもとへ足を運んだ。彼女はいつものように冷たい表情で二人を迎え、遺跡の地図を広げた。「今回はヴォルダンとの国境に近い場所だ。危険な魔物が徘徊しているという噂もある。注意が必要だ」。イシェは地図に目を凝らし、険しい顔つきになった。
「あの遺跡は...かつてヴォルダンが占領していた場所ではないか？」。テルヘルは小さく頷いた。「そうだな。その遺跡には、ヴォルダンが失ったものに関する重要な手がかりがあるかもしれない。それを手に入れるためだ」。ラーンの表情が一変し、真剣な眼差しでテルヘルを見つめた。「わかった。我々がやるべきことを教えてくれ」。イシェは不安を覚えながらも、彼らに続く決意をした。
夕暮れの薄暗がりの中、三人は遺跡へと足を踏み入れた。遺跡の入り口には、かつての戦いの跡が刻まれていた。荒れ果てた石畳と崩れかけた壁は、忘れられた時代の物語を語りかけてきた。イシェは背筋に冷たいものが走った。「何か...感じる」。ラーンも静かに頷き、剣を握りしめた。
彼らの前に、影がゆっくりと伸びてきた。それは巨大な魔物だった。赤い目と鋭い牙を持つその姿は、まさに悪夢のようだ。テルヘルは冷静に指示を出す。「ラーン、お前が Distractingする！イシェ、お前が弱点を探せ！私はチャンスを伺う」。三人は息を合わせて、魔物に立ち向かった。ラーンの剣は空を切り裂き、イシェは素早い動きで魔物の攻撃をかわし、テルヘルは魔法の力を使い、隙を突こうと待ち構えていた。
激しい戦いが続いた後、ついにラーンが魔物を倒すことに成功した。しかし、その代償は大きかった。ラーンの腕には深い傷が刻まれ、イシェも疲弊しきっていた。テルヘルは冷めた目で遺跡の奥へと進み、「目的物は手に入れたか？」と尋ねた。イシェは小さく頷き、小さな石を彼女に渡した。「ここには...ヴォルダンが失ったものについての情報が記されている」。テルヘルは石を手に取り、静かに頷いた。「これで...ようやく一歩前進だ」。
三人は遺跡からゆっくりと立ち去った。夕焼けの空に染まるビレーの街並みは、どこか遠く感じられた。イシェは振り返り、ラーンの疲れた顔を見つめた。彼はいつものように無邪気に笑っていたが、その瞳には疲れが見え隠れしていた。イシェは静かに言った。「ラーン...大穴を夢見るのはいいけど、たまには現実も考えないと」。ラーンは少しだけ真剣な表情で頷き、「そうだな...」。そして、再びいつもの明るい笑顔を取り戻し、イシェの肩に手を置いて言った。「さあ、今日は酒を奢ってくれ！俺たちは今日も生きているんだ！」。イシェはため息をつきながら、彼の手を払いのけた。「いい加減にしてくれよ...」。二人は夕暮れの街へと消えていった。