「準備はいいか？」ラーンの粗い声がビレーの薄暗い朝の空気を切り裂いた。イシェは小さく頷き、テルヘルは鋭い視線で彼らを吟味した。今日は特に緊張感が張り詰めていた。
「あの遺跡だ。地図には『誓約の祠』って記されてるらしい」
イシェが呟いた。ラーンは目を輝かせた。「よし！ついに大穴が見つかるかもな！」 いつも通り、彼の脳裏に浮かぶのは金貨の山と豪邸だった。しかし、イシェは不安を覚えた。テルヘルが持ち出した情報によると、その祠には強力な魔物が封印されているという噂があったのだ。
遺跡の入り口は崩れかけており、一歩踏み入れば湿った土とカビ臭い空気が彼らを包んだ。ラーンの懐刀が光るたびに、イシェは緊張で息を呑んだ。テルヘルは静かに周囲を見回し、何かを察知したかのように眉間に皺を寄せた。「何かいる」彼女の低く唸るような声が響き渡った。
すると、祠の奥から不気味な音が聞こえてきた。それはまるで、何者かが苦しみに満ちた叫び声を上げているようだった。ラーンは剣を構え、「行くぞ！」と叫んだ。イシェはためらいながらも後を追う。テルヘルの足取りは軽やかで、まるで影のように彼らを先導した。
祠の中央には巨大な石棺が置かれていた。その表面には複雑な模様が刻まれており、不気味な光を放っていた。そして、石棺から漏れる黒い霧がゆっくりと広がり始めた。
「気をつけろ！」テルヘルが叫んだ瞬間、石棺の蓋が激しく開き、そこから巨大な影が飛び出した。それは、漆黒の体を持つ恐ろしい魔物だった。ラーンの剣は魔物の前に届かず、イシェの弓矢も歯が立たない。絶望的な状況の中、テルヘルが前に出た。
「お前を倒すのは私の誓約だ！」彼女は鋭い声で宣言した。そして、手に持っていた小さな瓶から赤い液体を魔物に投げつけた。
魔物は激しく苦しみ、黒い霧は急速に消滅していった。最終的に石棺に戻り、再び静寂が訪れた。テルヘルの顔には少しの疲労の色が見えたが、目は鋭く輝いていた。
「これで終わりだ」彼女は言った。「誓約を果たした」