ラーンが巨大な石の扉に剣を突き立て、力を込めてこじ開けた。埃っぽい空気が充満し、かすかに硫黄の匂いがする。イシェは咳き込みながら懐中電灯を照らした。「またこんな場所か…」
「よし、今回は大穴だ！」ラーンは興奮気味に扉の隙間から中を覗き込んだ。
「いつも大穴って言うけど、結局ただの石室ばっかりじゃないか」イシェは眉間にしわを寄せる。「それに、テルヘルが持ち出した地図には何も載ってないはずだぞ？」
「ああ、でも何かある予感！」ラーンは振り返り、イシェにニヤリと笑った。イシェはため息をつきながら、後ろから続くテルヘルの姿を確認した。彼女はいつものように黒いフードを深くかぶり、顔色が見えない。
「準備はいいか？」テルヘルが低い声で言った。「あの詠唱の場所にいるはずだ。慎重に進もう」
三人は石室の中へ足を踏み入れた。薄暗い空間には、何本もの石柱が整然と立ち並び、天井からは蜘蛛の巣が垂れ下がっていた。ラーンの足音だけが響き渡る静寂の中、イシェは背筋がぞっとするような感覚を覚えた。
「ここ…何か違う」イシェは呟いた。「いつもと雰囲気が…」
その時、ラーンの足元に光るものが現れた。それは小さな水晶の球体で、ゆっくりと回転しながら淡い光を放っていた。ラーンがそれを拾い上げると、球体は激しく光り始め、部屋中に不気味な模様を投影した。そして、壁一面に書かれた古代文字が、まるで生き物のように輝き始めた。
「これは…」テルヘルは目を丸くする。「失われた詠唱…！」
その時、石室の奥から低い声が響き渡った。それは、まるで何千年も眠り続ける巨大な存在が目を覚ますような、不気味で畏怖の念を抱かせる声だった。イシェは恐怖で体が硬直した。ラーンは剣を構え、テルヘルは鋭い視線で周囲を見回した。
「準備しろ」テルヘルは低い声で言った。「詠唱が始まる…」