ビレーの賑やかな市場を抜け、ラーンとイシェはテルヘルについていくように歩き出した。いつもより少し緊張感が漂う空気に、イシェは眉間に皺を寄せた。テルヘルが連れてきた遺跡は、ビレーから南へ一日の行程、険しい山道を越えた先にあるという。
「今回は大物らしいぞ」とラーンは目を輝かせながら話したが、イシェは彼の無邪気な様子に少しだけ不安を感じた。テルヘルが提示した報酬は今までで一番高額だった。それはまるで、危険な何かを予感させるような額だったのだ。
山道は険しく、日暮れ時にはまだ遺跡に到着していなかった。疲れ切ったラーンとイシェが、ようやく見つけた遺跡は、崩れかけた石造りの門だけがひっそりと佇む、あまりにも寂れた場所だった。
「ここ…本当に遺跡?」ラーンの疑いの表情に、テルヘルは薄暗い微笑を浮かべた。「ここは特殊な遺跡だ。中に入るには特別な儀式が必要なんだ」
彼女は小さな袋から粉末状のものを取り出し、地面に撒き始めた。イシェは本能的に警戒した。あの粉末は何なのか?テルヘルが何か隠しているのではないかと疑いたくなった。
「さあ、準備はいいか?」とテルヘルは振り返り、ラーンとイシェに促した。二人は互いに顔を見合わせ、何かを察し合ったような気がした。しかし、すでに遅かった。
粉末が地面に吸い込まれると、突然激しく風が吹き荒れ、周囲の景色が歪み始めた。ラーンの足元は崩れ始め、イシェはバランスを崩して転倒しそうになった。混乱の中、テルヘルだけが冷静に立ち尽くし、どこか満足げな表情を浮かべていた。
「これで…準備完了だ」と彼女は呟きながら、崩れ落ちる遺跡へとゆっくりと足を踏み入れた。ラーンとイシェも後を追うように遺跡へ入ったが、その瞬間、二人は激しい恐怖を感じた。まるで、この遺跡に足を踏み入れることを深く後悔したかのように。
彼らの前に広がったのは、想像を絶する光景だった。それはまるで、巨大な迷宮のようであり、そこには、見る者を狂わせるような光と影が渦巻いていた。そして、その中心には、輝く宝物が置かれているように見えた。しかし、イシェは、その輝きは偽りの光であることを直感した。
「これは…詐欺だ…」イシェが呟いた瞬間、ラーンの声が聞こえた。「イシェ、見てみろ!あれは…」
ラーンの指さす方向には、まるで生きているかのように動く影が蠢いていた。それは、遺跡の奥深くに潜む何かを暗示するような、不気味な存在だった。