ビレーの酒場「三叉路」の薄暗い隅で、ラーンが杯を傾けながらイシェの顔を睨んでいた。「またあの遺跡か? あの場所には何もないって何度も言っただろう!」
イシェは冷静に答えた。「今回は違う。テルヘルが古い記録を見つけたんだ。以前の探索では見過ごされていた部分があるらしい。証拠もある。」
ラーンの眉間にしわを寄せた。「証拠ってなんだよ? テルヘルの言うことだけを鵜呑みにするんじゃないだろうな?」
イシェはため息をつきながら、「今回は違うと思う。テルヘルはヴォルダンに復讐するため遺跡を探している。もし本当に何か見つかったら、彼女の目的達成に近づくことになる。それに、あの遺跡は危険だ。僕たちは十分注意すべきだ。」
ラーンの視線は酒瓶から離れず、イシェの言葉を無視したままだった。「危険だって? いつもそう言うだろう。でも結局何もないんだろ?」
「今回は違うと思う」イシェは繰り返したが、ラーンの耳には届いていなかった。彼は立ち上がり、「いいさ、行こう。大穴が見つかるかもしれないぞ!」と豪快に笑った。イシェは小さくため息をつき、ラーンの後を続けた。
ビレーから遺跡までは日帰りで往復できる距離だった。三人は森の中を進み、やがて崩れかけた石造りの門にたどり着いた。かつて栄えた都市の面影が僅かに残る遺跡は、今や雑草が生い茂り、獣たちの住処となっていた。
テルヘルは地図を広げ、「ここだ。」と指をさした。彼女は鋭い眼光で周囲を見回し、「ここには何かある。証拠がある。」と呟いた。
ラーンは不機嫌そうに地面を蹴った。「また証拠かよ。何の証拠なんだ?」
「私は見聞きした情報に基づいて判断している。」テルヘルの言葉は冷たかった。「この遺跡はヴォルダンが隠した秘密に関するものだと信じている。そして、ここに何かがある証拠は、ヴォルダンの過去の記録の中にあった。」
イシェはテルヘルの言葉を注意深く聞きながら、遺跡の中心部へと足を踏み入れた。ラーンは後からついて行き、イシェに「本当に何か見つかるのか?」と尋ねた。
イシェは答えずに、遺跡の奥深くへと進んだ。彼の直感には何かがあると感じられた。そして、彼がその予感を確信に変える瞬間が訪れる。彼は地面に埋もれた石板を発見し、ゆっくりとそれを掘り起こした。石板には複雑な文字が刻まれており、イシェは目を丸くした。
「これは…!」
ラーンも驚いて近づき、「何だ? 何が書いてあるんだ?」と尋ねた。
イシェは石板を注意深く読み解きながら、「これはヴォルダンの記録の一部だ。そして…」彼は声を詰まらせ、ゆっくりと続けた。「この遺跡には、ヴォルダンが隠した秘密の武器に関する証拠がある。」