ビレーの朝の喧騒は、ラーンの耳にはかすかなざわめきのようにしか聞こえなかった。目の前に広がる遺跡の入り口、巨大な石造りの扉はまるで古代の巨人が残した遺物のように重々しく、そこに立ち尽くすイシェの細身の影さえも薄れていくようだった。
「準備はいいか？」ラーンの粗野な声が響き渡る。イシェは小さく頷いた。いつも通りの光景だが、今日は何かが違う。テルヘルが持ち込んだ設計図に記された複雑なシンボルと、その意味を解き明かすための彼女からの指示。まるで迷宮のような遺跡内部を正確に進むためには、それらの知識が必要不可欠だった。
イシェは設計図に記された経路を頼りに、慎重に足を進める。ラーンの力任せな突破とは異なり、彼女は繊細な石畳の模様や壁に刻まれた微細な彫刻にも注意を払いながら進んでいた。テルヘルは背後から、冷徹な目で二人の動きを吟味しながら、時折鋭い指示を出す。
「ここを左に曲がり、三歩進んで…」
テルヘルの指示に従い、彼らは遺跡の奥深くへと進んでいく。設計図に記された経路はまるで迷宮のように複雑で、時として彼らを深い闇の中に閉じ込めてしまう。しかし、イシェは冷静さを保ち、設計図と照らし合わせながら正確に進む。彼女の頭の中では、まるで巨大なパズルを解くように、遺跡の構造が徐々に明らかになっていく感覚があった。
そしてついに、設計図に記された目的地へとたどり着いた。そこは広大な地下空間であり、天井からは神秘的な光が降り注いでいた。中央には、巨大な石柱がそびえ立ち、その上には古代の文字で書かれた銘文が刻まれていた。
「ここに…大穴があるはずだ」
テルヘルは息を呑んだ。設計図に記されたシンボルは、この場所を示すものだった。ラーンは興奮気味に石柱に手を伸ばしたが、イシェは何かを感じ取ったのか、彼の腕を引き止めた。
「待て…」
イシェは石柱の表面をよく観察し始めた。そこには、設計図には記されていなかった複雑な模様が刻まれていた。まるで警告のように、そして同時に、何かを解き明かすための鍵にも見えるような…。