「よし、今日はあの迷宮跡だ！」ラーンの豪快な声がビレーの朝の静けさを破った。イシェはため息をつきながら、朝食の残りを片付けた。「また大穴を掘り当てるとか言って…」と呟くと、ラーンに詰め寄るように続けた。「あの迷宮跡は危険だって聞いたわよ。罠だらけだなんて噂もあるじゃない！」
「大丈夫だって！俺が先頭を切って開けばいいんだ！」ラーンは自信満々に笑った。イシェは彼のその笑顔に少しだけ安心した。だが、心の中では不安が消えることはなかった。特に最近、ヴォルダンとの国境付近で奇妙な事件が頻発しているという噂を耳にしてからというものだ。
そんな中、テルヘルはいつものように冷静さを保っていた。彼女は遺跡の地図を広げ、慎重に確認しながら、ラーンとイシェに指示を出す。「今日は特に注意深く行動することだ。あの迷宮跡には古代の言霊が込められている可能性がある。安易に触れれば危険だ。」
ラーンの軽率な性格とは対照的に、テルヘルは常に計画的だった。彼女はヴォルダンへの復讐を果たすために、あらゆる情報に敏感に反応する。そして、この遺跡探検にも独自の目的があることを隠しているようだった。
3人は迷宮跡へと向かった。入り口付近には、崩れかけた石碑が立っていた。「ここにはかつて、強力な魔物と戦った英雄の伝説が残されている…」イシェは碑文を声に出して読み上げた。ラーンの顔色は少し曇り、テルヘルは鋭い目を石碑に注いでいた。
迷宮の中は暗く、湿った空気が漂っていた。石畳には苔が生え、壁には奇妙な模様が刻まれていた。「この模様…何か意味がある気がする…」イシェは眉間に皺を寄せた。
その時、ラーンの足元に光るものが見つかった。それは小さな水晶の球体だった。「おお！これは何だ！」ラーンは興奮気味に拾い上げると、思わず手に力を込めて握りしめた。すると、球体が発光し、周囲の空気が激しく震え始めた。
「やめて！触るな！」テルヘルの叫びが遅かった。球体から放たれた光が迷宮全体を包み込み、壁に刻まれた模様が輝き出すと同時に、不気味な声が響き渡った。「汝の名を語れ…」
ラーンは驚愕し、イシェは怯える。テルヘルだけが冷静さを保ち、剣を抜いて構えた。「言霊…か。これは厄介だ…」彼女は呟いた。その目は、水晶の球体に宿る古代の力に鋭く光っていた。