ビレーの酒場「荒くれ者」の賑やかな喧騒の中、ラーンが豪快な笑いを上げてジョッキを空にした。イシェは眉間にしわを寄せながら彼を見つめていた。「また大口叩いてるわね。あの遺跡で財宝が見つかるなんて、一体どこからそんな噂を聞いたの？」「いや、あのさ、」ラーンの表情が曇り始めた。「あの遺跡、昔、王家の墓だったって話があったんだよ。だからな、もしかしたら…」彼は目を輝かせた。「王冠とか、宝石がぎっしり詰まってるんじゃないか？俺たちが見つけた時、ビレー中が狂喜乱舞だぜ！」イシェはため息をついた。「また妄想が始まったわね。そんな夢物語で、現実逃避するんじゃないのよ。いつまでも日当稼ぎをしているのでは、何も変わらないじゃない」ラーンの表情が再び曇る。「そうだな…でもさ、いつか必ず大穴を掘り当ててやるんだぞ！」彼は力強く言った。「あの時、俺たちが…」彼の言葉は途中で途絶えた。イシェが彼の目をじっと見つめていた。「あの時」とは、一体何だったのか？ラーンの心の中に、深い影が浮かんでいた。
次の日、彼らはテルヘルと共に遺跡へと向かっていた。テルヘルは冷静に地図を広げ、指示を出していた。「今日はこの区域を重点的に探す。ここには古い碑文が残されているらしい。それが何かヒントになるかもしれない」イシェはテルヘルの言葉に耳を傾けながらも、ラーンの様子が気になって仕方がなかった。彼はいつも以上に沈黙していて、どこか落ち着きのない表情をしていた。一体何が彼を悩ませているのだろうか？イシェは彼の心の中を覗き見たいと思った。「あの時」の記憶が、ラーンを苦しめているのだろうか？
遺跡の入り口には、崩れかけた石柱が立っていた。その上に刻まれた文字は、すでにほとんど判読不可能になっていた。テルヘルは指で文字をなぞりながら言った。「これは…古代語だ。ヴォルダンにも関係する歴史に触れることになりそうだ」ラーンの表情が少しだけ明るくなった。「ヴォルダンか…あの国には、俺たちが探しているものがあるのかもしれないな」イシェは彼の言葉を聞いて不安になった。ラーンがヴォルダンに何か恨みを抱いていることは知っていた。しかし、それは彼にとってあまりにも深い闇だった。
遺跡内部は暗く湿り、不気味な雰囲気が漂っていた。彼らは慎重に足取りを運びながら、奥へと進んでいった。やがて、彼らは大きな部屋に出た。その中央には、巨大な石棺が置かれていた。石棺の周りには、奇妙な模様が刻まれていた。「これは…」「これは何か？」イシェは言葉を失った。ラーンは石棺に近づき、手を伸ばした。「あの時…」彼は呟いた。「あの時、俺たちがここに来た時…」彼の目は輝き、過去の記憶が蘇ってきた。
その時、彼らは遺跡に閉じ込められていた。そして、そこで出会ったのは、ヴォルダンと関係の深い組織だった。彼らはラーンたちを捕まえ、拷問を加えた。ラーンの前に、イシェが苦しんでいる姿があった。彼は必死に抵抗したが、力及ばず…。イシェは「逃げるんだ…ラーン…」と言った。「あの時」の記憶が、ラーンの心を深く傷つけていたのだ。
テルヘルはラーンの様子をじっと見つめていた。彼女はラーンの過去を知っていた。そして、彼の復讐心にも理解を示していた。しかし、彼女は彼にこう言った。「復讐には終わりがない。あなたは本当にそれを望んでいますか？」ラーンの表情が歪んだ。「俺は…」彼は言葉に詰まった。「俺は…」
その時、石棺から光が放たれ始めた。部屋全体を明るく照らした。ラーンは目を細めた。「これは…！」イシェも驚いた。「何だこれは…」テルヘルは冷静に状況を判断していた。「何かが起ころうとしている…」石棺の蓋が開かれ、中から奇妙な光が放たれた。その光は、三人の影を包み込んだ。そして、彼らは未知の世界へと足を踏み入れたのだった。