ラーンの豪快な笑いが響き渡るビレーの酒場。イシェは眉間にしわを寄せ、杯を傾けずにいた。
「おいおい、イシェ。今日は祝うべき日だろ?あの遺跡から持ち帰った遺物はなかなかいい値段が付くぞ!」
ラーンは、テーブルに置かれた小さな箱を指差した。イシェは小さく頷き、箱の中身を覗き込んだ。そこには、青白い光を放つ奇妙な結晶が静かに眠っていた。
「確かに価値は高いだろう。だが、テルヘルが提示した報酬額は少し高すぎる気がする」
イシェはため息をついた。「あの女は何か企んでいる。この結晶に何か特別な意味があるのかもしれない。それとも、単に我々を利用しているだけなのか…」
ラーンの笑顔は薄れた。彼はテルヘルの冷たい視線と、その背後に漂う影を感じ取っていた。
「まあ、気にしすぎだな。俺たちは遺跡探索で稼いでいるんだ。報酬を受け取る以上、彼女のために働くのは当然だろ?」
ラーンはそう言いながらも、イシェの言葉が心の中でこだましていた。「何か特別な意味があるのか…」彼の胸に不安が芽生えた。
「だが…」イシェは言葉を続けようとしたその時、酒場の扉が開き、テルヘルが入ってきた。彼女の鋭い目は、まるで氷のように冷たかった。
「準備はいいか?次の遺跡の場所を教てる」
テルヘルの言葉は力強かった。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らの視線には、言葉にできない何かが交わされていた。それは、恐怖でも不安でもなく、何かもっと深いものだった。
「わかった」
ラーンはそう呟き立ち上がった。彼の心は、言い淀んだ不安感で満たされていた。