湿った土の匂いが鼻腔をくすぐる。ラーンが石を蹴飛ばすと、埃が舞い上がり、一瞬の間、視界を遮った。イシェは眉間に皺を寄せながら、足元の不安定な岩盤を確かめた。「ここは本当に安全なのか?」
「大丈夫だ、大丈夫。ほら、あの奥に光が見えるだろ?きっと大穴だ」ラーンは胸を張って答えたが、彼の声音には自信の欠片もなかった。イシェは深くため息をつき、ラーンの背中に手を置こうとしたその時、地面が激しく揺れた。
「何だ?」ラーンの顔色が一瞬青ざめた。イシェはバランスを崩しながらも、本能的にラーンの腕を掴んだ。その時、石化したような冷たい感覚がイシェの指先に伝わるのが分かった。それは岩盤から突き出た、巨大な触手の断片だった。
「ひっ」イシェの叫び声は、崩れ落ちる天井に飲み込まれた。ラーンは恐怖で言葉を失い、ただ凍りつくようにイシェを見つめた。触手はゆっくりと動いて、ラーンの足元へと伸びてきた。
その瞬間、テルヘルが駆け上がり、剣を振り下ろした。「行くぞ!この遺跡は俺たちのもんだ!」彼女の鋭い声は、まるで嵐の前の静けさのように、周囲に響き渡った。