ラーンの大きな斧が石壁を叩き砕いた。埃が舞い上がり、イシェは咳き込んだ。「もう少し慎重にやれば?」と彼女は言ったが、ラーンはニヤリと笑うだけだった。「ほら、見てろよ!」
彼の言葉通り、壁の奥には金色の光がちらついていた。興奮したラーンは、イシェを顧みずに駆け込んでいった。だが、その瞬間、床に仕掛けられた罠が作動し、鋭い棘がラーンの足首を貫いた。
「ぐわっ!」ラーンの叫び声が響き渡る。イシェは慌てて駆け寄った。「大丈夫か、ラーン! 」彼の顔は蒼白で、冷や汗が額を伝っていた。
その時、後ろから声がした。「あの人間共、いつも同じパターンだな」
テルヘルが冷静に話している。彼女は小瓶から赤い液体を出し、ラーンの傷口に塗った。すると、傷口から煙と共に異様な熱が立ち上り、みるみるうちに治まっていく。
「何だこれは?」ラーンは驚いた様子で足首を動かした。「痛くもないし、もう治ってる…」
「私の秘薬だ」テルヘルは言った。「ヴォルダンに奪われたものの一部だ。だが、この程度の怪我では効力を発揮しない」
ラーンの顔色を伺うように、イシェはテルヘルに問いかけた。「本当にヴォルダンと何かあったんですか?」
テルヘルは視線を伏せ、「いずれ話す時が来るだろう」とだけ答えた。
その時、ラーンが壁の奥にある金色の光に目を向けた。「おい、イシェ、見てろよ! 本当に大穴だ!」
イシェはテルヘルの表情をもう一度見た。彼女の手には、まだ赤い液体が残っていた。その液体は、まるで血のように赤く輝いていた。イシェは、ラーンの夢とテルヘルの復讐が、いつしか触れ合ってしまうのではないかと感じた。そして、その時何が起こるのか、不安と期待が入り混じった感情で胸を締め付けられるのを感じた。