「おい、イシェ、あの石碑、どう思う？」
ラーンの太い指が、苔むした石碑の刻まれた文字を指し示した。イシェは眉間に皺を寄せ、懐から小さなランプを取り出して照らした。
「古代語だ。だが...これだけでは意味不明だ」
イシェは呟きながら、石碑に刻まれた奇妙な紋章を眺めた。ラーンは、そんなイシェの真剣な様子とは対照的に、すでに次の遺跡への探検を夢想していた様子だった。
「よし、これで今日の探索は終わりだな！」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。いつも通り、ラーンの計画性のない行動にイシェは呆れていた。
その時、後ろから冷たく響く声がした。
「まだ終わってないわ。この遺跡の調査は私が決める」
振り返ると、テルヘルが鋭い目で二人を見下ろしていた。彼女の表情は硬く、何かを隠しているようだった。
「テ、テルヘルさん？何で？」
ラーンは驚きを隠せない様子で尋ねた。テルヘルはゆっくりと口を開いた。
「この遺跡には、ヴォルダンが欲する情報があるかもしれない。私が調査しなければならない」
イシェは、テルヘルの言葉に不吉な予感を感じた。彼女の目は、今まで以上に冷たく、そしてどこか悲しげに見えた。
「だが...私たちは約束しただろう？探索が終わったら報酬を...」
ラーンの言葉が途絶える前に、テルヘルは彼らを遮った。
「契約は破棄するわ。私の目的にはお前たちの協力は必要ない」
イシェは言葉を失い、ラーンは怒りを露わにした。しかし、テルヘルの決意は揺るぎなかった。彼女は、冷たい視線で二人を見据えながら言った。
「さようなら。二度と会わないだろう」
イシェとラーンが立ち尽くす中、テルヘルは遺跡の奥へと消えていった。二人は、突然の解雇に戸惑いながらも、どこか安堵感も覚えた。しかし、その安堵感は長く続かなかった。
テルヘルの言葉、「二度と会わないだろう」が、二人の心の中に深く刻まれたのだ。