「よし、今回はあの崩れかけた塔だ!地図によると奥に何かが埋まっているらしいぞ!」ラーンの明るい声がビレーの賑やかな市場を吹き抜けた。イシェはため息をつきながら、彼の後ろをついていった。「また大穴だなんて、そんな夢は見ない方がいいわよ。現実的に考えて、遺跡から掘り出すものはほとんどが錆びた武器と割れた陶器じゃないかしら」
「でもいつか必ず、でっかい宝石や黄金の像が出てくるはずだ!それが見つかればビレーのみんなを助けられるんだ!」ラーンの瞳は輝いていた。イシェはその瞳に少しだけ心を打たれる。彼の夢は愚かかもしれないけれど、純粋な希望にあふれている。
「よし、準備はいいか?今回はテルヘルがガイドだ」ラーンが言いかけた時、背後から冷たい声が響いた。「準備は完了している。早速遺跡へ行きましょう」テルヘルの鋭い視線はラーンとイシェを貫いていた。「今回は特に注意深く行動しなさい。ヴォルダンからの情報によると、この遺跡には危険な罠が仕掛けられている可能性がある」
イシェはテルヘルが何らかの目的を持って遺跡に来たことを察していた。彼女の言葉の裏にある真意を読み解くことは難しかったが、ラーンの安全を守るためにも、彼女を信頼することにした。
崩れかけた塔の入り口に立つと、冷たい風が吹き荒れた。「ここには何かがいる気がする…」イシェは背筋がぞっとした。ラーンは剣を抜いて警戒し、テルヘルも daggersを握りしめていた。
遺跡内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。壁には古びた絵画が描かれており、かつてこの地で栄えた文明の面影を垣間見せる。しかし、その美しさの裏に潜む危険を感じ取ることができた。
「気をつけろ!」ラーンの叫びと共に、床板が崩れ、深い穴が開いた。イシェはバランスを崩しそうになったが、テルヘルが素早く手を伸ばして支えた。「大丈夫か?」テルヘルの声は冷静で、しかし少しだけ心配そうに聞こえた。
「ありがとう…」イシェは深く感謝した。
遺跡の奥深くへと進むにつれて、危険な罠が次々と現れた。床に仕掛けられた針、天井から降り注ぐ毒矢、壁から突然飛び出す怪獣。ラーンとイシェは剣を振り回し、テルヘルは機転を利かせた動きで罠を回避した。
ついに、遺跡の最深部に着いた。そこには、巨大な石棺が置かれていた。石棺の上には、古びた文字が刻まれており、ヴォルダンと関係があることを示唆していた。
「これは…!」テルヘルは石棺に手を伸ばそうとした瞬間、突然の悲鳴が響き渡った。「ラーン!」イシェが振り返ると、ラーンの体が光る矢に貫かれていた。
「ラーーン!」イシェの声を聞き取れなかったかのように、テルヘルは石棺をこじ開け始めた。「この遺跡には、ヴォルダンへの復讐に必要なものがある…」
イシェはラーンの lifelessな目を凝視し、絶望感に打ちひしがれた。その時、彼女はテルヘルの真意を悟った。彼女は単なる遺跡探索の依頼主ではなく、ヴォルダンへの復讐を果たすためにラーンを利用したのだ。そして、ラーンの死によって、その計画は成功するはずだった。
「あなたは…」イシェは怒りと悲しみに震えながら、テルヘルに迫った。「なぜ…?」
テルヘルは石棺から何かを取り出し、イシェの方へゆっくりと歩み寄ってきた。その目は冷酷で、無情だった。「これは仕方がない。お前も私の計画の一部だ」
その時、ビレーの市場で騒ぎが起こり始めた。人々が集まってきており、「執政官が解任された!」「新しい執政官が選ばれた!」といった声が聞こえてきた。イシェは混乱の中、テルヘルの言葉を無視して、ラーンの遺体に駆け寄った。
「ラーン…!」イシェの涙が頬を伝う。彼女の心には、深い悲しみと怒りが渦巻いていた。そして、新たな決意も芽生えていた。ラーンの死を無駄にしないためにも、彼女はテルヘルの真実に立ち向かうことを決意した。