ラーンの粗雑な足音とイシェの静かなステップ音が、埃っぽい遺跡の通路にこだました。テルヘルは後ろから二人を見つめるように歩いていた。彼らはいつもこんな調子だ。ラーンは目の前の石碑に興味を示し、手を触れようとする。イシェはラーンの動きを一瞬観察し、石碑の表面に刻まれた奇妙な模様に目を向けた。
「待て」
イシェの声が響き渡った。ラーンは眉をひそめながら振り返った。
「何だ?何か見つけたのか?」
イシェは石碑の模様を指さした。「この記号、どこかで見たことがあるような…」
テルヘルは二人がやり取りしている様子をじっと見つめていた。彼らの関係性、行動パターンを分析するのに最適な機会だ。ラーンは衝動的で予測しやすい。イシェは慎重だが、ラーンの行動に振り回されることが多い。
「あの日、ヴォルダン軍が攻めてきた時にも…」
イシェはつぶやいたように言った。
テルヘルは一瞬、心を痛めた。ヴォルダンへの復讐心は彼女を常に支配している。イシェの過去もまた、ヴォルダンと深く関わっているのだろう。
「何だ?」ラーンがイシェに問いかけた。「何か思い出したのか?」
イシェは首を横に振った。「いや…違う」
テルヘルは二人の会話を観察していた。彼らの心の奥底にあるものを探ろうとする。それは、彼女自身の復讐を果たすために必要な情報なのだ。