「よし、今回はあの崩れた塔だな！」 ラーンが興奮気味に地図を広げると、イシェは眉間にしわを寄せた。
「またあそこ？ 危険だって聞いたぞ。それに最近、ヴォルダンの兵士が周辺をうろついているらしい」
ラーンの肩越しにテルヘルが冷ややかに言った。「臆病な猫みたいだな。大穴が見つかったら、お前たちにも十分な報酬を与えると言っただろう」
イシェは視線をそらし、「あの塔には何かあるって噂は聞いたけど…」と呟いた。
ラーンが「そんなの気にすんな！ 一緒に探検だ！」と豪語し、イシェを引っ張ろうとしたその時、テルヘルが手を挙げた。
「待て。あの塔にまつわる話を聞いたことがある」彼女は目を細め、静かに語り始めた。「昔、そこの近くに住んでいた村人がいたんだ。彼らは遺跡の守護者だと自称し、塔に入る者を全て拒んでいたらしい。そしてある日、ヴォルダン軍が村を襲い、その村人たちは皆殺しにされたという…」
ラーンの顔色が変わった。「そんな…本当か？」
テルヘルは頷き、「村の長老には息子がいたという話だ。彼はヴォルダン軍に捕らえられ、その後、どこかへ連行されたらしい」
イシェは考え込んだように言った。「つまり、あの塔には何か大切なものがあるのかもしれない…」
ラーンの表情は決意に変わった。「よし、行こう！ ヴォルダンが何をしたか、そしてその息子は何を経験したのか、全てを明らかにしよう！」
イシェはラーンの熱意に押されながらも、不安な気持ちを抱きながら塔へと続く道を歩み始めた。
塔の入り口には、朽ちた石碑が立っていた。そこに刻まれた文字は、まるで警告のように見えた。イシェは胸騒ぎを感じつつ、ラーンとテルヘルと共に塔へ足を踏み入れた。彼らの前に広がるのは、深い闇と、忘れられた歴史の影だった。