ラーンの肩を叩く音がした。イシェの視線は、いつものようにラーンの背中に注がれていた。「準備はいいか?」とイシェが尋ねると、ラーンは力強い声で「おう、待たせたな!」と答えた。彼らは今日も遺跡へと向かう。ビレーの住人にとって遺跡は日常の一部であり、ラーンとイシェも幼い頃からその存在に慣れ親しんでいた。
「今日は何か面白いものが見つかる気がする」
ラーンの言葉にイシェは苦笑した。「いつもそう言ってるわ」と呟くが、内心では少し期待していた。ラーンの無計画さに振り回されることも多いけれど、彼の前向きなエネルギーにはいつも救われてきた。イシェにとってラーンは、単なる友人ではなく、親代わりのような存在だったのだ。
テルヘルが地図を広げ、「今日はここを重点的に探検する」と指示した。彼女の冷たい視線は、まるで遺跡の中に隠された何かを見据えているようだった。テルヘルは彼らに依頼して遺跡探索を手伝わせるが、目的はあくまで遺跡の調査にあるのではなく、ヴォルダンへの復讐のため必要な情報を探しているのだ。
遺跡の入り口は狭く、薄暗い通路が続く。ラーンは先頭を歩き、イシェは後をついていく。テルヘルは二人が通る隙間から様子を伺いながら進んでいった。突然、ラーンの足元が崩れ、彼は転倒した。「気を付けて!」イシェの声が響く中で、ラーンは何かを掴んだ。それは石造りの箱だった。
「これは…」イシェが近づいて箱を確認すると、その表面に複雑な文様が刻まれていた。「見たことのない記号だ」とイシェは呟いた。テルヘルも興味を示し、「この遺跡には何か秘密が隠されているかもしれない」と目を輝かせた。
ラーンの無謀な行動によって、意外な発見につながった。イシェは内心でため息をつきながらも、少しだけ期待を膨らませた。もしかしたら、今回の探検が彼らの人生を変えるきっかけになるかもしれない。