ラーンの大斧が朽ちた石の扉を粉砕した。埃と影が充満する遺跡内部に、イシェは懐中電灯の光を向けながら慎重に足を進めた。
「ほら、またしても見つけたぞ!」
ラーンの豪快な声と、彼の背後に続くテルヘルの冷淡な視線が、イシェの背筋を凍らせた。「ここは…以前にも来た場所だ」と彼女は呟いた。
「そうか? 覚えがないぜ」
ラーンは興味なさげに、崩れかけた柱の奥にある小さな穴を覗き込む。イシェも覗きこもうとしたが、テルヘルが彼女の腕をつかんだ。「無駄だ」とテルヘルは言った。「あの穴には何もない。単なる偽物の宝箱に過ぎない」
イシェはテルヘルの言葉に納得したわけではない。しかし、この遺跡探索を始めてから幾度も繰り返す光景だった。ラーンの無計画な行動、そしてテルヘルの冷酷な判断力。イシェはいつも二人の中間に立つ存在で、その狭間で揺れ動く自分の心を理解する術を持っていなかった。
「よし、次の場所へ行くぞ!」
ラーンの声が響き渡り、イシェは仕方なくテルヘルと一緒に、崩れた通路を進んでいった。
時が経つにつれて、イシェは自分たちが何を求めているのか分からなくなっていた。ラーンは「大穴」、つまり莫大な財宝を夢見ていた。テルヘルはヴォルダンへの復讐を誓っていた。しかしイシェには、彼らとは異なる何かがあった。
まるでこの遺跡の奥底に隠された覗き穴を通して、自分自身を見つめ直さなければならないような予感がしていた。