朝の薄暗い空が、まだかすかに紫を残しているうちにビレーの街角から三人は出発した。ラーンの背中に大きな剣を背負わせ、イシェは細身の体で軽快に足取りを軽くし、テルヘルは黒曜石のように光る瞳を鋭く前方に固定していた。
ビレーを出るとすぐに目の前に広がるのは、緑が濃く茂り始めた山肌だった。遺跡の入り口は山の斜面に開いており、そこへ続く道は岩だらけで険しい。ラーンは慣れた様子で足場を確かめながら進んでいくが、イシェは慎重に足元の石を一つ一つ確認しながら進む。テルヘルは二人よりも少し後を歩き、時折後ろを振り返り周囲を警戒していた。
遺跡の入り口に着くと、ラーンの顔色が一瞬だけ曇った。入り口は崩れかけており、その奥からは薄暗く不気味な空気が漂っていた。イシェは小さくため息をつき、テルヘルは眉間に皺を寄せた。
「準備はいいか?」
ラーンの声はいつもより少し低く、緊張が伝わってきた。イシェは小さく頷き、テルヘルは剣の柄に手をかけた。三人は互いに視線を交わし、深呼吸をしてから遺跡へと足を踏み入れた。
内部は薄暗く、湿った土と石の匂いが充満していた。わずかに差し込む光が、崩れかけた壁や天井を照らし、不気味な影を壁に映し出していた。ラーンは懐中電灯を点け、光を ahead に向けながら進んだ。イシェは彼の後ろを歩き、テルヘルは常に後方を確認しながら歩いていた。
遺跡の中心部は広大な空間になっており、天井近くまで巨大な柱が屹立している。柱には複雑な模様が彫られており、その一部は崩れ落ちている。床には石畳が敷かれていたが、所々に崩れた部分があり、足元を注意深く見て歩く必要があった。
「ここだ」
テルヘルが突然声をあげた。彼女は巨大な柱の根元に立っており、指さす方向には壁に埋め込まれた小さな石棺があった。イシェは近づいて石棺を確認すると、表面に複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように細かなディテールが表現されていた。
「これは…?」
イシェは言葉を失った。ラーンも興味津々に石棺をじっと見つめていた。テルヘルは石棺の脇に置かれた小さな石版を取り上げ、表面の文字を目で追いかけた。
「ここに書かれているのは…」
テルヘルが声を落とす。彼女の表情は緊張と興奮でいっぱいだった。三人は互いの視線を感じ合い、石棺に秘められた謎を解き明かすために、息を呑んでその場に立ち尽くした。