「よし、準備はいいか？」
ラーンの豪快な声とイシェの静かな頷き。テルヘルは二人が持てる荷物を確認しながら、ビレーの町を背に遺跡へと続く道を歩いた。日差しが容赦なく降り注ぐ灼熱の砂漠、足元を覆う砂塵、遠くに見える朽ち果てた石造りの門…。いつもと変わらない風景だが、テルヘルにはどこか重苦しい空気が漂っているように感じられた。
「今回は大物らしいぞ。古代ヴォルダン文明の遺跡だ」
ラーンの興奮した声に、イシェは眉をひそめた。「噂じゃ、その遺跡には強力な魔物が封印されているって…」
「そんな話は無視しろ。宝が眠っているとでも言われたら、ラーンは目の色変えちまうんだ」
テルヘルは小さく苦笑する。ラーンの行動原理は単純明快だ。危険を顧みない無鉄砲さは、時に頼もしいが、同時に不安定な要素でもある。イシェの慎重さを補佐するように、テルヘル自身も常に冷静さを保つよう努めていた。
遺跡の入り口にたどり着くと、そこは広大な砂漠の中に突如として現れた巨大な石造りのピラミッドだった。崩れかけている部分もあるが、それでもなおその威容は圧倒的だ。
「よし、ここから先は俺たちが案内する」
テルヘルは二人が遺跡に入る前に、地図を広げながら説明を始めた。「内部構造はまだ解明されていませんが、過去の調査記録によると、中央部に宝庫がある可能性が高いようです。ただし、魔物やトラップの可能性も否定できませんので、常に警戒してください。」
ラーンはうなずき、イシェは地図に視線を落とす。テルヘルは二人が緊張感を持って遺跡へと入っていく様子をじっと見守った。
彼らの目的は単なる宝探しではない。それはヴォルダンへの復讐を果たすための重要な一歩だ。
遺跡の奥深くには、古代ヴォルダンの秘密が眠っているはずだ。そして、その秘密を解き明かすことで、テルヘルは自身の憎しみを晴らすことができるだろう。
「必ず、お前たちの手でヴォルダンを滅ぼす日が来る」
テルヘルは心の中で呟いた。 そして、ラーンとイシェの姿を深く見つめた。彼らを補佐し、導き、そして最終的に勝利へと導く存在となるのだ。