「よし、ここだ!」
ラーンが興奮気味に声を上げ、巨大な石の扉の前に立ち止まった。イシェは眉間にしわを寄せながら、扉に刻まれた複雑な模様を吟味した。
「本当にここが入り口か? この遺跡、どこからどう見てもただの崩れかけた岩場に見えたぞ」
「大丈夫だ、イシェ。俺の勘が間違いない。ほら、この紋章、どこかで見たことあるだろ?」
ラーンは胸を叩きながら、扉に刻まれた紋章を指さした。イシェはため息をついた。ラーンの「勘」は、これまで何度となく彼らを危険な目に遭わせてきた。だが、今回は違う気がした。
「よし、わかった。でも、この扉を開けるには何か仕掛けがあるはずだ。慎重にやろう」
イシェが扉の模様を調べ始めた時、背後から声がした。
「いい感じだな。早く開けろ」
テルヘルが鋭い眼差しで二人を見下ろしていた。ラーンの興奮は一転して不安になった。テルヘルの要求にはいつも従わなければいけなかった。だが、今回は違う気がした。
扉の仕掛けを解き明かし、イシェがゆっくりと扉を開けると、そこは広大な地下空間だった。宝の山ではなく、朽ち果てた石棺が並ぶだけの寂しい場所だった。ラーンの肩が落っこちた。
「なんだこれ…?」
ラーンが呟くと、テルヘルは冷たく笑った。
「残念だな。だが、まだ諦めるには早すぎる」
彼女は石棺の一つに手を伸ばし、蓋をゆっくりと開けた。そこには、黄金のマスクが光っていた。
「これが、私が求めていたものだ」
テルヘルはマスクを手に取り、満足そうに言った。イシェはラーンを見つめ、何か言いたげに口を開きそうになった。だが、ラーンの目はすでに空っぽだった。
テルヘルがマスクを手にすると、石棺から不気味な光が放たれ、空間全体を包み込んだ。ラーンとイシェは目を閉じ、激しい痛みを感じた。そして、意識を失った。
目が覚めた時、ラーンは狭い檻の中にいた。イシェの姿も見えた。
「ここは…?」
ラーンの問いに、イシェは苦い顔で答えた。
「ヴォルダンの牢だ」
その時、檻の扉が開き、テルヘルが近づいてきた。彼女は手には、黄金のマスクを携えていた。
「残念だったな、二人とも。利用価値はなくなった」
テルヘルはラーンとイシェに冷たい視線を向け、マスクを手にしたまま去っていった。ラーンの心には、深い絶望が広がった。そして、裏切りという苦い現実を受け入れなければいけなかった。