ラーンの大斧が埃を巻き上げながら遺跡の奥深くへ切り込んだ。石畳の上には奇妙な文様があしらわれ、イシェは眉間にしわを寄せながらその模様をスケッチブックに写し取っていた。
「何か分かるか?」
ラーンが問いかけると、イシェは首を横に振った。
「意味不明だ。でも、この記号…どこかで見たことがあるような気がする」
その時、テルヘルが背後から声を上げた。
「見つかったようだ」
彼女は手袋をした指で、壁に埋め込まれた金属の装置を指さした。複雑な歯車とパイプが組み合わさったその姿は、まるで精巧な時計のようだった。
「これは何だ?」
ラーンの問いかけに、テルヘルは薄暗い目で装置を見つめた。
「ヴォルダンが所有していた技術資料によると、これは『記憶の装置』と呼ばれるらしい。過去を記録し、再現できるという」
イシェは目を丸くした。
「そんなものがあるのか…」
「しかし、起動には特別なキーが必要だ。そして、そのキーを探すのが私たちの仕事だ」
テルヘルの言葉に、ラーンは興奮気味に斧を研ぎ始めた。イシェは装置をじっと見つめながら、一抹の不安を感じた。この装置が本当に過去を再現できるなら、それは希望なのか、それとも破滅なのか…