「よし、今回はあの崩れかけの塔だ。噂によると、地下深くには古代の祭壇があるらしい」
ラーンが興奮気味に地図を広げる。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の指さす場所を確認した。
「また危険な遺跡を選んだじゃないか。あの塔はヴォルダン兵が以前から監視しているだろう。見つかったら大変なことになるぞ」
イシェの言葉はラーンの耳に届かない。彼はすでに剣を腰につけ、廃墟となった街へと続く道を駆け出そうとしていた。
「待て!計画を立てないと!」
イシェが彼を追いかけるように叫んだ時、背後から冷たく澄んだ声が響いた。
「計画は既に立てられている」
テルヘルが近づいてくる。彼女の瞳には鋭い光が宿り、口元には薄ら笑みが浮かんでいた。
「私はヴォルダンの兵士を欺き、その隙に遺跡へ侵入する道を開く。お前たちは私の指示に従い、祭壇を見つけ出すのだ」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。テルヘルの言葉は冷酷だが、どこか計画的であり、信憑性を感じさせた。彼らは彼女の提案を受け入れるしかなく、やがて廃墟となった街へと足を踏み入れた。
塔の入り口に近づくと、ヴォルダン兵の姿が見えた。彼らの目は鋭く、動きは素早かった。テルヘルは影の中に潜り込み、巧みな手つきで薬草をすりつぶし始めた。その香りは周囲の空気を包み込み、兵士たちの意識を徐々に朦朧とさせていった。
ラーンとイシェはテルヘルの指示に従い、兵士たちの背後から塔へと侵入した。崩れかけた階段を登り、朽ち果てた石の間を縫うように進むにつれて、重苦しい空気に包まれていくのを感じた。
そしてついに、祭壇に辿り着いた。その姿は荘厳で、古代の力を感じさせるものだった。しかし、祭壇の中心には奇妙な石碑が置かれており、その表面には複雑な模様が刻まれていた。
ラーンが石碑に触れると、突然光が放たれ、周囲に衝撃波が走った。石碑は割れていくとともに、その内部から鋭い刃が飛び出してラーンの腕を貫いた。
「ラーン!」
イシェが駆け寄るも、遅かった。ラーンの体は地面に倒れ、血が流れ出した。
テルヘルは冷静に状況を把握し、石碑の真下に隠された通路を発見した。
「これは罠だった。ヴォルダンが仕掛けてきたものだ」
彼女は剣を抜くと、イシェに言った。
「この遺跡には何もない。我々は帰るべきだ」
イシェはラーンの遺体を抱きしめながら、涙を流していた。テルヘルは彼の悲しみに同情する気持ちを抱きつつも、自分自身の目的のために心を硬くした。
「行くぞ、イシェ。まだ終わっていない」
彼女はイシェの手を引き、石碑の通路へと消えていった。残された遺跡には、ラーンの血が染み渡り、冷たい風が吹き荒れていた。その光景はまるで、彼の命を裁断するかのようだった。