「よし、今日はあの崩れた塔だ。噂によると、奥深くには未開の部屋があるってな」
ラーンの豪快な声は、イシェの耳元で小さくため息に変換された。
「またそんな噂話に騙されないでほしいわ。遺跡探索は計画性と準備が必要なのよ。特にあの塔は危険だと聞いたことがあるわ」
イシェは慎重に地図を広げた。「崩れた箇所が多い上に、内部構造も複雑で…」
ラーンの言葉はすでに別の場所に飛んでいた。「イシェ、お前が言う通りだとしても、大穴が見つかる可能性もあるじゃないか!それに、テルヘルさんが高額の日当をくれるんだから、リスクは伴うものよ」
テルヘルは鋭い眼光で二人を見据えていた。彼女の口元には常に冷ややかな笑みが浮かんでおり、その表情はまるで鋼鉄の仮面のようだった。「確かに危険な場所だ。だが、その危険こそが大きな報酬につながる可能性がある。私は、この塔に何かがあるという確信を持っている」
彼女は静かに言葉をつづけた。「かつてヴォルダンとの戦いで、私の家族を奪ったあの男。あの男は今も生きていると確信している。そして、彼の行方を追う手がかりが、この塔にあると確信している」
ラーンの顔色が変わった。「テルヘルさん…?」
「私は復讐を果たすために必要な情報を得るためだ」テルヘルは冷たい声で言った。「そして、そのために君たちを必要としている。君たちの力が必要だ」
イシェは不安げな表情でラーンを見つめた。ラーンの瞳には、冒険心を燃やす炎と同時に、何か別の感情が宿っていた。それは、テルヘルの復讐に巻き込まれることへの恐怖なのか、それとも、自分自身の夢を叶えるための新たなチャンスとしての期待なのか。
イシェは二人を見つめ、ゆっくりと頷いた。「わかったわ。あの塔へ行くことにする」
「よし!」ラーンは拳を握りしめた。「大穴、そしてテルヘルさんの復讐の手助けも、俺たちに任せろ!」
三人は遺跡へと向かい始めた。彼らの背中には、希望と不安、そして裁可を求める影が長く伸びていた。