ビレーの薄暗い酒場には、いつも以上に重苦しい空気が流れていた。ラーンがいつものように豪快に笑い飛ばそうとしても、イシェの眉間にしわは深く刻まれていた。
「あの遺跡、あれだけの規模なら何か見つかるはずだと思ったんだけどなぁ」
ラーンの言葉に、イシェはため息をつきながら酒を一口飲んだ。テルヘルが提示した報酬は魅力的だった。だが、最近、彼らは次々と空振りに終わっていた。かつては栄華を誇ったエンノル連合も、今は衰退の一途を辿っているように見えた。遺跡の発見率も低下し、かつては夢を語っていた大穴は、遠い過去の幻想のようだった。
「おいおい、イシェ、顔色が悪いぞ。そんなこと言ってても何も始まらないよ」
ラーンがいつものように明るく言ったが、その声にも力強さが欠けていた。テルヘルも、どこか疲れた様子でテーブルに肘をつき、目を閉じていた。
「何か変だな…」
イシェはかすかに言葉を漏らした。彼女の鋭い感覚は、いつも以上に周囲の空気を敏感に感じ取っていた。酒場の中に漂う不穏な雰囲気、客たちの沈んだ顔つき、そして、どこか遠くで聞こえるような、かすかな悲鳴のような音…。
「何だ?」
ラーンがイシェの言葉に反応したが、その時だった。酒場のドアが開き、一人の男が入ってきた。彼の顔には血糊が splattered 、手には錆びた剣を握っていた。男は目を血走らせて周囲を見回し、恐怖と狂気の色を帯びた声で言った。
「ヴォルダン…来る…」