ラーンの鼻息が荒くなるのがわかった。目の前の遺跡の入り口、崩れかけた石造りのアーチから、薄暗い内部をのぞき込んだ彼の瞳は、興奮で光っていた。
「おい、イシェ、見てみろ！ここだ！」
ラーンがそう叫ぶと、イシェはため息をついた。いつも通りの光景だった。ラーンの衝動的な行動に巻き込まれるのはもう何回目か。慎重に周囲を警戒しながら、イシェもアーチの隙間から内部を覗き込んだ。薄暗い空間に、わずかに光る石畳が見えた。
「まあ、確かに遺跡っぽいが…」
イシェが言うと、ラーンはすでにアーチをくぐり抜け、遺跡内部へと足を踏み入れていた。
「待て、ラーン！」
イシェの呼びかけも届かない。ラーンの背中は、すでに闇の中に消えていく。イシェはため息をつきながら、テルヘルに視線を向けると、彼女は少し笑みを浮かべていた。
「行こうか、イシェ。あの男には、いつもどこまで行ったらいいのかわからない」
テルヘルはそう言うと、ラーンを追いかけるように遺跡へと進んでいった。イシェは仕方なく後ろをついていった。
遺跡内部は湿気が多く、土と石の匂いが充満していた。不規則に積み重なった石柱が、薄暗い空間をさらに狭く感じさせた。ラーンの足音だけが響き渡り、緊張感が高まっていた。
「おい、イシェ！何かあったぞ！」
ラーンの声が、奥の方から聞こえてきた。イシェはテルヘルと一緒に、その声をたどり歩き始めた。すると、ラーンが壁に寄りかかるように立ち、興奮気味に何かを指さしていた。
「見てみろ！古代の地図だ！」
壁には、複雑な模様と記号で書かれた地図が描かれていた。イシェは地図の内容を理解しようとしたが、その知識では全く意味がわからなかった。
「これは…一体何？」
イシェが尋ねると、テルヘルは少し目を細めて地図を眺めた。
「ヴォルダンに関係がある可能性が高い」
彼女はそう言うと、ラーンに語りかけた。
「ラーン、この地図を手に入れるためには、危険な場所に行く必要がある。覚悟はできているか？」
ラーンの瞳には、迷いはなかった。衝動的に、そして情熱的に、彼は頷いた。