ラーンが陽気に笑いながら石を蹴飛ばすと、イシェは眉間に皺を寄せた。「また遺跡探しの話か?」彼女はため息をつき、ビレーの街並みを眺めた。賑やかな市場の通りも、遠くに見える山々も、いつもと変わらない景色だった。
「いや、今回は違うんだって!」ラーンは目を輝かせ、「テルヘルが新しい依頼をくれたんだ。大規模な遺跡らしいぞ。報酬も今までで一番高いって!」
イシェは彼の熱意に心を痛めた。「また危険な場所だろう。あの遺跡はヴォルダンとの国境に近いんだろ?行き来が制限されている場所だって聞いた」
「大丈夫、テルヘルが案内してくれるし、僕たちにはラーンがいるじゃないか!」ラーンの自信に満ちた声に、イシェは苦笑した。いつも通り、彼は無謀な計画を練り、それを実行しようと躍起になる。そして、いつも通り、イシェはその計画に巻き込まれることになるのだ。
「わかったわ、行くよ」彼女は肩をすくめた。「でも、今回は本当に慎重に行動するからね、ラーン。約束して」
テルヘルは彼らの前に立っていた。黒曜石の光沢のある鎧を身にまとい、鋭い眼光で二人を見つめていた。彼女の背後には、ヴォルダンとエンノル連合の国境を越える危険な道を示す地図が置かれていた。そこには、かつて栄えた文明の遺跡が眠り、今もなおその謎を秘めている場所があった。
「準備はいいか?」テルヘルの声は冷たかった。「あの遺跡へ行くには、行き来する道は限られている。危険も多いだろう」
ラーンは剣を手に取り、イシェは小さな地図を広げた。三人は互いに頷き合った。彼らは、未知なる世界へと旅立つ準備をしていた。そして、その旅が彼らの運命を変えることになることを知る由もなかった。