ラーンの大雑把な振る舞いにイシェは眉をひそめた。「本当にここが正しいのか？ 何回も言ったように、あの古い地図は曖昧すぎるだろう」。
「大丈夫だ、イシェ。俺の勘を信じろ！」ラーンは自信満々に笑ったが、その目は少し迷いを隠せない。
彼らは、ビレーから南へ数日の道のりにある遺跡に向かっていた。テルヘルからの依頼で、ヴォルダンに奪われたという古代の遺物を探すのだ。
「あの地図は、俺の父の形見なんだ」ラーンは少しだけ真面目な表情になった。「父さんは、この遺跡についてずっと調べていた。きっと何かを知っていたはずだ」。
イシェは彼の言葉を聞いて、胸が締め付けられた。ラーンの父は、数年前に謎の事故で亡くなった。村の人々は、単なる事故だと噂していたが、イシェには何か隠されたものがあるように思えた。
遺跡の入り口は、崩れかけた石畳と蔦に覆われた門になっていた。ラーンは力強く門を押し開け、中へ入った。薄暗い通路から、湿った臭いと土の匂いが漂ってきた。
「ここが本当に安全なのか？」イシェは不安げに言った。
「大丈夫だ。俺が先導する」ラーンの背中に、イシェは不吉な予感を感じた。
遺跡の中心部には、巨大な石の祠があった。祠の上には、奇妙な模様が刻まれていた。テルヘルが興奮した様子で近づき、その模様を指さした。「これが、ヴォルダンが欲しがっている遺物だ」。
その時、祠の奥から不気味な音が聞こえてきた。まるで、何かがゆっくりと目覚めているような音だった。ラーンの顔色が変わった。
「これは…悪い予感がする」イシェは緊張しながら剣を構えた。
突然、祠の中から黒い影が現れた。それは、巨大な獣の姿をしていた。獣の目は血のように赤く輝き、鋭い牙がむき出しになっていた。
「逃げろ！」ラーンが叫んだが、すでに遅かった。獣は驚異的な速さで襲いかかってきた。イシェは剣を振り下ろしたが、獣の皮膚は硬く、刃が通らなかった。
ラーンの背後から、テルヘルが何かを唱え始めた。その言葉は、古代の呪文のようだった。獣は苦しげにうなり声を上げ、体を震わせた。
「これは…俺の血筋の力だ」テルヘルは冷たく言った。「この獣は、俺の祖先によって封印されたもの。ヴォルダンがそれを解き放ったのだ」。
イシェは驚愕した。テルヘルの秘密を、そして、ラーンの父が何を知っていたのか、その謎が深まるばかりだった。