ラーンが巨大な石扉に剣を突き立てた時、イシェは背筋が寒くなるのを感じた。扉には複雑な模様が刻まれていて、その一部はまるで血痕のように赤く染まっていた。
「よし、開いたぞ!」
ラーンの豪快な声に反して、イシェは慎重に扉の奥を覗き込んだ。薄暗い通路の先には、何かの光がかすかに見えた。
「何かあるぞ、行ってみよう!」
ラーンはすでに中に入ろうとしていた。イシェは仕方なく後ろをついていった。
通路は湿気で冷たかった。石畳の上には、乾いた血の跡が何箇所も残っていた。イシェは嫌な予感がした。
「この遺跡…何か変だぞ」
イシェが呟くと、ラーンは振り返った。
「変?どこが?」
「ここ…どこかで見たような気がするんだ…」
イシェは自分の記憶を必死にたぐり寄せた。そして、あることに気づいた。
「この模様…これって…!」
イシェの指が震えた。扉に刻まれた模様は、彼女の故郷の紋章とそっくりだった。
「まさか…ここが…」
イシェは言葉を失った。ラーンの故郷とは異なる、遥か彼方にある小さな村。そこには、イシェの家族が住んでいた。
イシェの祖先は、この遺跡を深く調査していたという言い伝えがあった。しかし、何世代も前に、何者かに襲撃され、村は壊滅。生き残ったのはイシェの父だけだった。
「まさか…ここが…」
イシェは恐怖と怒りで胸がいっぱいになった。この遺跡には、イシェの過去、そして血で染まった真実が眠っているのかもしれない。
ラーンはイシェの様子を見て、何かを感じ取ったようだった。彼は手を伸ばし、イシェの肩に軽く触れた。
「大丈夫だ…俺が守る」
ラーンの温かい言葉に、イシェは少しだけ安心した。しかし、この遺跡から逃げることはできない。イシェは決意を固めた。真実を知り、復讐を果たすために。