ラーンの重い腰がようやくベッドから離れた。イシェの冷たい視線が刺さるように感じられた。
「もう朝だぞ、寝坊するな」
イシェは既に荷造りを終えており、テーブルの上には粗末なパンと水筒が並んでいた。ビレーの日の出は早いが、ラーンにとっての朝はいつも遅かった。
「わかってるって、今日はテルヘルが待ってるんだろ?」
ラーンはあくびしながら着替え始めた。 yesterday の遺跡探索では、テルヘルに珍しく褒められたことが嬉しかった。普段は冷淡な彼女からの賛辞は、ラーンの心を躍らせたのだ。
「あの遺跡の奥深くには、何かあるって言ってなかったか?螺旋階段みたいなの」
イシェは眉をひそめた。「そんな話、聞いたことないわ。テルヘルがまた嘘をついたんじゃないの?」
ラーンの心は躍った。「まさか嘘をつけるなんて、テルヘルにはありえないだろ。あの目は真実を映す鏡だ!」
イシェはため息をついた。「本当にあの人に騙されるのは、いつまで続くの?」
ビレーを出ると、朝日が街を黄金色に染めていた。遠くに見えるヴォルダンの山脈は、まるで影のように空に迫っていた。
テルヘルはいつものように遺跡の入り口で待っていた。黒曜石のような瞳がラーンとイシェを見据えていた。
「今日は、あの螺旋階段がある場所へ行くんだ」
彼女は地図を広げ、指を動かした。
「その階段の先には、ヴォルダンに奪われた私の大切なものがあるかもしれない」
ラーンの胸が高鳴った。テルヘルにとっての大切なものとは何なのか?それは彼にとっても大きな財宝になるかもしれない。彼はイシェの視線を無視して、テルヘルの後ろを歩き始めた。
螺旋階段は暗く湿り気を帯びており、石畳には苔が生えていた。ラーンの足音が響き渡り、不気味な静けさを破った。階段を上るにつれて、空気が重くなり、圧迫感が増していった。
「ここが最後の試練だ」
テルヘルは静かに言った。彼女の瞳に、かつて失ったものを取り戻す決意が宿っていた。 ラーンはイシェと顔を見合わせた。彼らは螺旋階段の頂上に続く道へと足を踏み入れた。