ラーンの大雑把な指示に従い、イシェは薄暗い遺跡の奥深くへと足を踏み入れた。壁一面に刻まれた奇妙な文様は、まるで知恵ある何かが絶望的な叫びをあげているように見えた。彼女の背筋に寒気が走った。
「おい、イシェ！こっちだ！」ラーンの声が遠くから響いてきた。彼は興奮した様子で、何やら光り輝く石片を手に持っている。
「また無駄な trinket だろ？」イシェはため息をついた。ラーンが持ち帰る宝のほとんどは、ただの飾り物に過ぎなかった。それでも、彼を失望させたくない気持ちから、仕方なく彼の後ろについていく。
その時、地面が激しく揺れ始めた。石塵が舞い上がり、視界を遮った。イシェは恐怖で体が硬直するのを必死に抑えながら、ラーンを探した。
「ラーン！どこだ！」
彼女の叫び声は、崩落する遺跡の中に飲み込まれていった。
その時、彼女は目の前に広がる虚無のような空間を見た。そこには、何もなかった。そして同時に、全てがあった。過去と未来、希望と絶望、あらゆるものが渦巻いているかのようだった。
イシェは恐怖に慄きながらも、その光景に心を奪われた。それは、彼女の人生が今まで抱えていた、漠然とした虚しさの正体だったのかもしれない。
その時、ラーンの声が聞こえた。「イシェ！大丈夫か？」
彼の声は、虚無の中に一筋の光のように響いていた。イシェは立ち上がり、彼の手を掴んだ。
「ラーン…」
彼女は何も言わずに、ただ彼の手を強く握りしめた。二人は、崩壊する遺跡から脱出しようと、手を取り合って進んでいった。