ラーンが巨大な石の扉を押し開けた時、埃っぽい空気が彼らを包んだ。イシェは鼻をつまんで咳き込みながら、「またここか…」と呟いた。ビレー周辺の遺跡はどれも似たような造りだった。テルヘルは石畳の上を軽快に歩きながら地図を広げた。「ここは以前調査した場所とは違うようだ。古い記録によると、奥には祭壇があるらしい。もしかしたら、そこで何か見つかるかもしれない」
ラーンの目が輝いた。「よし、行ってみるか!」
イシェはため息をつきながら後ろをついていった。扉を開けた時の埃っぽさは、まるで過去の重苦しい空気が彼らを包み込もうとしているようだった。遺跡の奥深くへと進むにつれ、空気はより冷たくなり、湿り気を感じ始めた。
「ここは何か…不気味だな」イシェは不安そうに言った。ラーンは何も言わずに、剣を握りしめていた。テルヘルは冷静な表情で周囲を見回し、地図に記された経路を確認していた。
やがて彼らは広間へとたどり着いた。祭壇が中央に置かれており、その周りを奇妙なシンボルで飾られた石柱が囲んでいた。祭壇の上には、何かの容器が置かれていた。
「これは…」テルヘルが近づき、容器を慎重に触れた。「薬草が入っているようだ。古い文献によると、この薬草は強力な治癒力を持つらしい」
ラーンの顔色が明るくなった。「やった!これでまたしばらく食っていけるぞ!」イシェは少し複雑な表情を浮かべた。確かに貴重な薬草だが、それ以上に、この遺跡には何かもっと大きな秘密が隠されているような気がした。
テルヘルは容器を慎重に持ち上げた。「よし、これで今日は引き上げよう」
三人は遺跡を後にした。ビレーへと戻る道中、イシェはテルヘルの言葉を思い出していた。彼女は以前、ヴォルダンとの戦いで負った傷を治療するために、様々な薬草を探していると言っていた。
もしかしたら、この遺跡で手に入れた薬草が、テルヘルにとって単なる貴重な品物ではなく、彼女自身の復讐のために必要なものなのかもしれない。イシェは深く考え事をし始めた。彼ら三人は、単なる遺跡探索者ではなく、何か大きな物語に巻き込まれているのかもしれない。そして、その物語の鍵は、この遺跡で見つけた薬草にあるのかもしれない。