「よし、今回はあの崩れかけの塔だ! 伝説には、塔のてっぺんに宝石が埋め込まれた黄金の王冠があるってな!」
ラーンの興奮した声に、イシェはため息をついた。 「またそんな話?」
「いや、今回は違うんだ! この遺跡、以前から調査してるんだけど、最近、周辺で奇妙な現象が起こってるらしいんだ。夜中に光が消えたり、音がするっていう目撃情報も出てる。」
ラーンの目は輝いていた。イシェは彼の熱意に押されるように、いつも通り頷いた。
テルヘルは冷静に地図を広げ、遺跡の位置を確認した。「噂話と真実は違うものだ。しかし、この遺跡には何か秘密がある可能性が高い。特に、近年、ヴォルダンが周辺の遺跡を調査しているという情報も気になる。」
彼女は鋭い眼光でラーンを見つめた。「今回は慎重に進めよ。特に、お前たちは。」
ビレーを出発し、数日かけて遺跡へと辿り着いた時、そこはかつて栄えた都市の廃墟だった。崩れかけた石造りの建物群は、まるで巨大な墓石のように静かに立ち尽くしていた。
「ここだな。塔はあの奥だ。」ラーンが指さす方向には、朽ち果てた石柱が天に向かって聳え立っていた。
遺跡に入るやいなや、不気味な静寂に包まれた。彼らは慎重に足取りを確かめながら、崩れかけた通路を進んでいった。壁にはかつての繁栄を物語る彫刻が刻まれていたが、ほとんどは風化し、原型をとどめていなかった。
「なんか…変だぞ。」イシェが呟くと、ラーンも顔色が変わった。「確かに…何か、不自然だ。」
彼らは進むにつれて、空気が重く淀んでいくのを感じた。まるで、何かが彼らの存在を察知しているような、そんな不気味な感覚に襲われた。
そして、ついに塔の入り口に到着した時、目の前に広がる光景に言葉を失った。
塔の中央には巨大な穴が開いており、そこから暗闇がむき出しになっていた。穴からは、かすかな光が滲んで見え、まるで何かが蒸発するような、不思議な現象が起こっているように見えた。
「あの光…一体何だ?」ラーンの声は震えていた。イシェも恐怖で言葉を飲み込んだ。テルヘルだけが、冷静さを保ちながら、慎重に近づいていった。
しかし、その瞬間、穴から突如として風が吹き荒れ、三人はバランスを崩して転倒した。そして、視界がぼやけ始めた。
「何だ…これは…?」イシェが意識を失う直前、かすかに聞き取れたのは、テルヘルの冷たい声だった。「これは…ヴォルダンの仕業だ…」