ビレーの街はいつもより空気が重く、太陽が容赦なく降り注ぐ蒸し暑さが体中に張り付いた。ラーンは額から汗が流れ落ちるのを拭いながら、イシェとテルヘルに声をかけた。「今日は遺跡に入る前に酒でも飲もうぜ!この暑さじゃ頭も働かんぞ」
「ラーン、そんなこと言ってる場合じゃないわよ。今日の仕事は重要なのよ」テルヘルが冷たく切り捨てた。彼女の目は鋭く、表情は険しかった。いつもよりさらに緊迫した雰囲気が彼女を包んでいた。
イシェは小さくため息をつきながら、ラーンの提案を軽くかわした。「私もラーンには賛成だけど、テルヘルさんの言う通りよ。今日は特に慎重に進めないとね」
「わかったわかった、じゃあ少しだけ休憩か」ラーンは肩を落としたが、すぐに立ち直り、近くの泉へと向かった。イシェもテルヘルに促されるように彼の後を追った。
泉の水は冷たくて甘く、一口飲むだけで蒸し暑さが和らぐ気がした。ラーンの顔には少しだけ笑顔が戻ってきた。「やっぱり水は最高だな!」
「気を抜くなよ、ラーン」テルヘルが鋭い視線でラーンを見据えた。「今日の遺跡は危険だ。ヴォルダンとの関係も考えると慎重に。」
ラーンの顔の笑みが消え、再び緊張した表情に戻った。イシェは二人が互いに目を合わせているのを見て、胸を締め付けられるような思いがした。テルヘルはヴォルダンの復讐のために遺跡を探していることは知っていた。その目的のためなら手段を選ばないだろうことも。
「よし、わかった。準備はいいか?さあ、行こう」ラーンが立ち上がり、剣を手に取った。イシェもテルヘルもそれに続いて立ち上がった。三人は再び遺跡へと向かったが、蒸し暑さの中、彼らの心には冷たい影が落とされていた。