「おい、イシェ、準備いいか?」ラーンが剣を構えながら、イシェに声をかけた。薄暗い遺跡の入り口に立っている三人の後ろ姿は、夕日に照らされて長く伸びていた。
「いつも焦るなよ、ラーン。ここは特に危険だって言っただろ」イシェは慎重に地図を広げ、周囲を確認した。「テルヘルさん、大丈夫ですか?」
テルヘルは小さく頷き、鋭い視線で遺跡の中を睨んでいた。彼女の顔色は悪く、疲れているようだった。
「よし、行こう!」ラーンの一声で三人は遺跡へと足を踏み入れた。
遺跡内は薄暗く湿っており、不気味な静けさが支配していた。足元には崩れかけた石畳が広がり、ところどころに苔が生えている。
「ここからは慎重に進もう」イシェがささやいた。「何か感じる…不吉なものを感じます…」
ラーンはイシェの言葉に耳を傾けながら、周囲を見回した。だが、何も見えず、ただ漠然とした不安だけが彼を襲っていた。
遺跡の奥深くを進んでいくにつれ、空気は重く淀み、圧迫感が増していった。壁には奇妙な文字が刻まれており、その意味は全く理解できなかった。
「これは…」テルヘルが突然立ち止まり、壁の文字を指さした。「ヴォルダン文字だ…!」
ラーンの顔色が変わった。「ヴォルダン? なぜここに…」
「ここには何かある…何か危険なもの…」テルヘルは声を震わせた。
その時、突然、壁の奥から不気味な音が響き渡った。まるで誰かが苦しんで叫んでいるような声だった。
「何だ…?」ラーンの顔面が青ざめた。「イシェ、準備しろ!」
三人は警戒しながら音のする方向へと歩みを進めた。
すると、目の前に広がる光景に息を呑んだ。そこには、巨大な祭壇があり、その上には何体もの死体が横たわっていた。
死体は、まるで苦しんで亡くなったかのように、ひどく歪んだ形をしていた。そして、祭壇の周りには、黒く焦げ付いた跡がいくつも残されていた。
「これは…一体…」イシェは言葉を失った。
「葬儀だ…」テルヘルは静かに呟いた。「ヴォルダンが何かを祀るための儀式…そして、犠牲者となった者たち…」
ラーンは震える手で剣を握りしめ、「誰だ!出てこい!」と叫んだ。
だが、答えはなかった。ただ、不気味な静けさと、死の臭いが漂うだけだった。