「よし、今回はあの崩れかけた塔だ!地図によると、奥深くにある部屋には未確認の遺物が眠っているらしいぞ!」ラーンの明るい声は、いつも通りイシェの心をざらつかせた。
「またそんな無謀な話?」イシェは眉間に皺を寄せた。「地図の情報なんてあてにならないって何度言ったことか…」
「大丈夫だ、イシェ!俺たちならなんとかなるさ!」ラーンは、いつものように彼女の意見を軽視するような調子で答えた。しかし、イシェは彼の楽観的な態度に、どこか安心感と同時に苛立ちを感じていた。
彼らが暮らすビレーの遺跡探索は、いつもこの繰り返しだった。ラーンの無謀な提案、イシェの慎重な反対、そして結局ラーンのペースに巻き込まれるというパターン。
「今回の報酬は高いぞ。あのテルヘルが、未確認遺物さえあればどんな値段でも払ってくれると言っていたんだ。」ラーンの言葉は、イシェの心を少しだけ揺さぶった。確かに、最近ビレーの生活は苦しい。
「でも…」イシェはためらった。「あの塔は危険だって聞いたことがある。地元の人たちは近づかないようにしているし…」
「そんな噂を信じるな!俺たちにはテルヘルがいるぞ。強力な魔術使いだ。どんな罠も突破できるはずだ!」ラーンは自信満々に言った。彼の言葉は、イシェの葛藤をさらに深めた。テルヘルの力は確かに頼りになるが、彼女の目的はあくまで自分の復讐であり、彼らを利用している可能性もある。
イシェは深くため息をついた。「わかった…今回は君の言う通りにしよう。」彼女は決意したように言った。しかし、その瞳には、不安と葛藤がしっかりと刻まれていた。