ビレーの朝は冷え込んだ。ラーンが粗末な宿屋から飛び出すと、イシェがすでに準備を終えていた。
「今日はテルヘルさんの依頼で、あの『嘆きの塔』だそうだ。危険らしいけど、報酬も悪くないぞ!」
ラーンの明るい声に、イシェは小さくため息をついた。「危険というのは、単なる噂ではないと思うわ。あの塔はかつてヴォルダン軍に占領された場所だって聞いたことがあるし…」
「大丈夫だよ!俺が守ってやる。」ラーンは自信満々に胸を叩き、イシェを安心させようとしたが、彼の表情にはどこか自信なさげな影が落ちていた。
テルヘルは彼らの前に姿を現した時、鋭い視線で二人を見据えた。「準備はいいか?今日は特に慎重に動きたい。」彼女の言葉には、いつもより強い緊張感が込められていた。
「嘆きの塔」は、かつて栄華を極めた王国があった場所だと言われている。今は廃墟と化し、危険な魔物が生息すると言われている。しかし、その奥深くには、かつての王家の宝物庫があるという噂も流れていた。テルヘルはその宝物を手に入れるため、ラーンとイシェに依頼してきたのだ。
塔の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。足元の石畳は崩れかけており、一歩一歩が慎重を要した。ラーンの豪快な剣振りが響き渡る一方で、イシェは細心の注意を払いながら周囲を観察していた。
「ここは以前ヴォルダン軍が占領していた場所だ。何か手がかりがあるかもしれない。」テルヘルは鋭い視線で壁に目をやった。「あの記号…!」彼女は壁に刻まれた紋章を指差した。それは、ヴォルダンの国旗によく似た紋章だった。
「これは…もしかして…」イシェの顔色が変わった。「この塔がヴォルダンと関係があるというのは、噂以上のものなのかもしれない。」
その時、背後から不気味な音が響き渡った。振り返ると、巨大な影が彼らに迫っていた。それは、かつてヴォルダン軍が作り出したと言われる魔獣だった。
ラーンは剣を抜き、勇敢にも魔獣に立ち向かった。イシェは彼の動きをサポートしながら、テルヘルと共に魔獣の弱点を探そうとした。しかし、魔獣は強力で、三人の攻撃をことごとくかわし、ラーンの攻撃を受けると、激しい反撃に出た。
「ラーン!」イシェが声をあげた時、ラーンは魔獣の爪に切り裂かれ、地面に倒れた。
「や… Yahweh…」イシェの声は震えていた。ラーンの姿を見て、彼女は初めて自分の無力さを痛感した。
その時、テルヘルが何かを叫んだ。「待て!あの紋章…!」彼女の言葉に、ラーンとイシェは一瞬で理解した。あの紋章は、ヴォルダン軍の紋章ではなく、別の何かを象徴していたのだ。そして、その真実は、彼らの人生を大きく変えることになるだろう。