ラーンが宝の在りかを示す古びた地図を手にした時、イシェは眉間にしわを寄せた。「またか、ラーン。そんなぼろい地図で本当に宝がわかるわけがない。」
「大丈夫だよ、イシェ!今回は違う気がするんだ!」ラーンは地図を胸に押し当て、目を輝かせた。「ほら見て、この記号!これは古代の遺跡を示しているに違いない!」
イシェはため息をつきながらも、結局はラーンの熱意に負け、テルヘルと共に遺跡へと向かった。
遺跡は深い森の中にひっそりと佇んでおり、朽ち果てた石造りの門が崩れかけていた。薄暗い内部には、埃をかぶった石像や苔むした壁画が広がっていた。ラーンは興奮気味に地図を片手に進もうとしたが、イシェは一歩も動かずに周囲を警戒していた。
「何か変だ…この静けさ。」イシェの声は緊張していた。「いつもなら遺跡には何らかの獣か魔物が棲み着いているはずなのに…」
その時、地響きがした。遠くから聞こえる獣の咆哮だった。ラーンとイシェは顔を見合わせた。あの咆哮は、今まで聞いたことのない巨大な獣のものだった。
「逃げろ!」テルヘルが叫んだ。「あれはヴォルダンの魔物だ!ここでは戦えない!」
三人は必死に遺跡を後にするため走り出した。しかし、出口付近で巨大な影が彼らを襲った。巨大な牙と爪を持つ獣が、咆哮と共に襲いかかってきたのだ。
ラーンは剣を構え、必死に獣をかわしながらイシェとテルヘルを逃がそうとした。だが、獣の力はあまりにも強すぎた。ラーンの攻撃は獣に届かず、逆に彼は獣の爪で深く切り裂かれてしまう。
イシェは絶望的な状況の中、自分の持つ小さな魔法の瓶から赤い粉を撒き散らした。それは古い文献に記されていた、魔物に対する一時的な抑止力を持つ粉だった。獣は一瞬だけ動きが鈍くなった。
その隙にテルヘルが獣の目を狙い、短剣を深く突き立てた。獣は絶叫し、地面に倒れ込んだ。しかし、それはあくまで一時の勝利に過ぎなかった。獣はすでに瀕死の状態だったが、それでもなお彼らに向かって牙を剥いていた。
イシェはラーンの傷を見て、顔色が変わった。「ラーン!」
「大丈夫だ…イシェ…逃げろ…」ラーンの声は弱々しかった。彼はもう立ち上がれなくなっていた。
テルヘルは冷静に状況を判断した。「イシェ、ラーンを連れて逃げるんだ!私は獣を遅らせる!」
イシェは迷わずラーンを抱き上げ、遺跡から走り出した。後ろから聞こえる獣の咆哮とテルヘルの叫び声が、彼らの耳をつんざくように響いていた。