ビレーの朝焼けが、ラーンの寝顔を撫でた。いつものようにイシェを起こす前に、彼は一人で遺跡に向かう決意をしていた。昨日のテルヘルの言葉が頭をよぎった。「お前たちは、ただの虫だ」と。虫のように、彼女の目的のために使われているだけだと。
イシェはいつも通り、彼を待っていた。「また一人で行くつもり？危険すぎるぞ」。ラーンの無計画さにイシェは常に頭を痛めていた。だが、彼の瞳に宿る熱い光を見つめる度に、自分もどこかワクワクしてしまう。
遺跡の入り口に立つと、冷たい風が吹き荒れた。いつもならラーンが先陣を切るが、今日はなぜか足が重い。「何かあったのか？」イシェの声に、ラーンは小さく頷いた。「あの言葉が…」と呟く彼の言葉を遮るように、テルヘルが現れた。「準備は良いか？今日の遺跡は、少し特殊だ」彼女の目は、いつもの冷たさとは違う何かを秘めていた。
遺跡内部は、いつもより暗かった。重苦しい空気中に、かすかな悪臭が漂う。ラーンの剣が震えた。イシェは彼の背後から、静かに呪文を唱える。だが、その魔法も遺跡の闇を完全に払拭することはできなかった。
進むにつれて、ラーンは焦燥感に駆られた。テルヘルは彼らを深く暗い場所に導いているように感じられ、目的が何か見通せない。イシェも彼の不安を察しているようだった。二人は互いに言葉を交わさず、ただ黙々と進み続けた。
そしてついに、彼らは遺跡の奥深くにたどり着いた。そこには、巨大な石棺が鎮座していた。テルヘルは興奮した表情で石棺に手を伸ばし、「これでヴォルダンへの復讐が始まる…」と呟いた。だが、その瞬間、石棺から黒い霧が噴き出し、三人は激しい光の中に包まれた。
意識を取り戻した時、ラーンは自分が牢獄の中にいることに気づいた。イシェとテルヘルも同様に拘束されていた。
「これは…一体…」イシェが言葉を失う中、ラーンの心には冷たい恐怖が忍び寄った。彼らはテルヘルの復讐のために利用されたに過ぎなかったのだ。そして、その代償は彼ら自身の人生だった。